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ラブ&ピース - ゆきさんのレビュー
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Web www.jtnews.jp

タイトル名 ラブ&ピース
レビュワー ゆきさん
点数 8点
投稿日時 2016-07-07 23:01:17
変更日時 2016-07-08 08:03:22
レビュー内容
 二十五年以上前、まだ無名であった監督自身が書き上げた脚本を基に「夢見る若者」について描いた一品。

 序盤に関しては、ハッキリ言って、観ているのが辛い内容。
 主人公は「冴えない若者」どころの話じゃなくて、さながら精神的な病でも抱えているかのような、酷い描かれ方をしているのですよね。
 トイレの個室の落書きが、そのまま主人公の強迫観念を描き出している演出と「炬燵に隠れる主人公の姿」が「亀」を連想させる演出などには、クスっとさせられましたが、精々それくらい。

 怪獣みたいで良い名前だ、という理由でペットの亀に「ピカドン」と名付けるシーン。
 そして、そんなピカドンに、人生ゲームのマップや、野球盤の上を歩かせて遊ぶシーンにて(おぉ、怪獣映画みたい!)と思わされた辺りから、ようやく面白くなってきて、後は右肩上がり。

 いくら会社で揶揄われたのが原因とはいえ、ピカドンを主人公が自らトイレに流してしまう展開には疑問も残りましたが「皆に笑われて、自ら夢を諦めてしまった若者」を暗示している描写の為、仕方なかったのだろうなと、何とか納得出来る範疇でした。
 その後に、ピカドンを想って作った曲を路上で熱唱し、主人公がスター街道を駆け上っていく展開は、本当に痛快で面白かったですね。
 映画「地獄でなぜ悪い」の劇中曲が、本作で使われているファンサービスにも、思わずニヤリ。

 また、サイドストーリーも秀逸であり、視点が主人公から離れる場面でも、全く飽きさせない作りとなっていましたね。
 謎の老人の正体が判明する件には「サンタクロースだったの!?」と本当に吃驚。
 作中にて彼に浴びせられる「どうせ来年も、アンタの配った夢が、ここに戻ってくるんだ……」という台詞にも、独特の情感があって、非常に良かったです。
 サンタさんは皆に夢を与えている訳ではなく、皆が捨てた夢を配り直しているだけなのだという、哀しい世界観。
 それが、実に味わい深い魅力を、作品に与えてくれていました。

 予見していた通り、怪獣映画そのものなクライマックスが訪れた瞬間には、もう大興奮。
 そして主人公が「過去の自分」「恥ずかしい夢を抱えていた頃の自分そのもの」であるピカドンと向き合い、耐え切れずに、震え出してしまう件では、こちらも固唾を飲んで、画面を見つめる事になりました。
 誰だって、他人に知られたら恥ずかしいような夢を抱いていた事はあるはずですが、この映画は、そんな過去の自分を、否応無く思い出させてくれる。
 そして、夢を叶えてみせたはずの主人公が、段々と嫌な奴へと化してしまった事も併せて描き「夢を抱く事って、そんなに素晴らしいか? 夢を叶えたら幸せになれるのか?」という、極めて難しい問いかけを投げかけてくるのです。

 ピカドンが消えたのを目にし、呆然としたまま元いた家に帰っていく主人公の姿に、RCサクセションの「スローバラード」が重なる演出に関しては、もう反則。
 名曲というだけでなく、非常に思い入れ深い曲でもあったりする為に、それだけで満点を付けたい気持ちに襲われました。

 ただ、最後の最後、主人公がピカドンと再会して「カメ」と呼んだ事に関しては、大いに不満。
 「スローバラード」曲中にて「カメ」と言っているように聞こえる部分があるからと、無理やり重ねたように思えてしまい「空耳アワーかよ!」とツッコんでしまいましたね。
 「僕ら、夢を見たのさ」「とっても、良く似た夢を……」というフレーズに関しては、主人公とピカドンに似合っていただけに、そこだけが残念で仕方ない。
 他にも、家具をそのままにしておいたという発言など「最終的に主人公は、この家に帰ってくる」伏線が分かり易過ぎた辺りは、欠点と言えそうです。

 監督の特色である血みどろバイオレス描写、フェティッシュな性描写が無くとも、しっかり面白かった辺りは、嬉しかったですね。
 上述の「夢」に関する問い掛けについても
「夢を抱く姿は滑稽で、馬鹿にされたりするかも知れないが、きっと分かってくれる人がいる」
「夢を叶える為に自分を見失うくらいなら、叶わなくても構わない」
 という、優しい答えが示されているように思えて、じんわり胸が温かくなりました。

 結局、この作品のラストにて主人公は、夢が叶う前の、ピカドンに夢を語り聞かせていた頃の、恥ずかしい自分に戻ってしまいます。
 何の進歩もしていないと、馬鹿にして笑い飛ばす事だって出来てしまいそうな、寂しいエンディング。
 だけど、今度こそは自分を見失わないまま、ピカドンを見失わないままで、夢を叶えてみせて欲しいと、全力で応援したくなる。
 そんな、素敵な映画でした。
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