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黒蜥蜴(1968) - ゆきさんのレビュー
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Web www.jtnews.jp

タイトル名 黒蜥蜴(1968)
レビュワー ゆきさん
点数 7点
投稿日時 2016-08-07 08:32:28
変更日時 2017-10-26 23:22:19
レビュー内容
 美輪明宏こと丸山明宏の妖艶さに酔いしれる映画ですね。

 とはいえ、あくまでも「女装した男性の美しさ」といった感じであり、劇中では純粋に女性として描かれている事に、多少の違和感もあるのですが、それでも文章にすれば「主演女優」「彼女」という表現が自然と飛び出してくるのだから、我ながら驚かされます。

 そんな彼女と「人形」とのキスシーンにも「三島先生、何やってるの!?」と吃驚。
 著作を読む限りでは、結構お堅い芸術家肌の人というイメージがあったのですが、こんな剽軽な一面もあったんだなと、妙に感心させられました。

 脇役である松岡きっこも、主演女優とは正反対の、まだ初々しい純情な美しさがあり、画面に彩を添えている形。
 その一方で、探偵の明智役には、もっと美男子を配しても良かったのでは? と思ったりもしたのですが……この物語において黒蜥蜴が惹かれたのは「明智小五郎の容貌」ではないのだから、知的さを漂わせる木村功で正解だったのでしょうね。
 落ち付いた声音の魅力を、長椅子越しに黒蜥蜴と対話するシーンなどで、じっくり堪能する事が出来ました。

 ラストシーンの耽美さも勿論素晴らしかったのですが、個人的に最も心惹かれたのは、黒蜥蜴が男装した姿を鏡に映し出し、その「もう一人の自分」に語り掛ける場面。
 「返事をしないのね。それなら良いわ」
 「また明日、別の鏡に映る、別の私に訊くとしましょう」
 という台詞回しには、本当に痺れちゃいましたね。
 本作における黒蜥蜴は、普段の姿は「女装した男」にしか思えず、そしてこの場面においては「男装した女」にしか思えないという、実に倒錯性を秘めたキャラクターなのです。
 それゆえに「本当の私なんてない」という台詞も切なく聞こえ「男に生まれてしまった女の悲劇」あるいは「女に生まれてしまった男の悲劇」を感じさせてくれます。

 存在自体が罪深く、哀しくも美しい人物として、観賞後も、何時までも心の中に残ってくれる。
 そんな素敵なヒロイン、素敵な女優と出会えた、魅惑の八十六分でありました。
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