SCAT/くちずさむねこ(2007)

 

Gガール 破壊的な彼女(2006年【米】)

わぉ! みんなすまんこりゃもう10点だぜぃ!
ライトマン節全開、全てが強制的に「ほどほど」の枠へ納められ、どんな危険な暗喩も明るく、楽しく笑えて観れる。加えて今回はスケールの違いから来る笑いがとってもスマートで、ひとつの場面に3重4重の意味が込められていて密度がすごく濃い。特にエンドクレジット後のオチを知ってから全体を解釈し直すと、要所での女を巡る会話の意味が変わって来る(ま、全然本筋に関係ないんだが)という懲り方が強烈にくだらなくていい。
要約すると「アイバン・ライトマン最高作」。全作は観てないけど。

アイバン・ライトマンは『ゴースト・バスターズ』シリーズはダメなんだけど、『キンダーガードン・コップ』はその内に秘めた黒さで注目してました。内側に、相当黒いモノを持っている監督だと思う。それも、共産主義の激烈な粛正を逃れてアメリカに渡ったチェコ移民なので、拭い去れるような付け焼き刃な黒さじゃないんだ。腐った血の匂いのする、本当の人間の暗部を抱えている人なんじゃないかと思う。
同じような原体験を持って(想像だが)いても、それを明示的に、容赦なく、観客の目の前にさらけだすのがポール・バーホーベン。チェコ人であるライトマンは、人間の持つ残酷さ、愚かさ、運命の酷さを徹底的に隠し、笑いのオブラートに包む。そしてチラリ、チラリと真紅の内張りを覗かせて、救いようのない現実世界、自分の観ている本当のモノを、自ら作り上げた虚構と対比するわけだ。彼の芸術は「真実を言えば殺される」世界で培われたスタイルを、アメリカ流に継承したものだ。

アメリカ一強の危険な国際状況も、本質を見失ったニューヨーク流恋愛も、911以降の他者への不信・行き過ぎへの反感も、みんなまとめて「声を出して笑えない笑い」に押し込めてしまう。扱うテーマがテーマなので、今までの作品よりも暗部がより表面へくっきり現れている。
今までのライトマン作品にはない、ダイレクトな表現(もちろん他の監督に比べれば果てしなく曖昧で微妙だが)。場違いのギャグに込められた巨視的なモノと微視的なモノの間にある、流血を招きかねない残酷な寓意。だがそんな前向きに捉えられないネタを、暖かな笑いに変えてしまうのがライトマンのマジックだ。
観ていて何度も「笑えないはずなのにどうしてこんなに可笑しいんだろう」と首をひねりながら、やっぱり笑っていた。彼の作品を観る時、オイラは躊躇なく悪人の心で画面を見ていると言ってもいいかも。いや「白も黒も混ざり合った息の詰まりそうな灰色の世界でも笑える力」を与えられている…と言うべきかな。

世間での本作の評価が低いのは、企画自体の問題でもあるけれど、やっぱり宣伝のやり方がまずかったんだろう。これは恋人同士で見に行く映画じゃない(いやま、恋人間では毒にも薬にもならないという意味ではデート映画の王道でしょうけど)。ひとり部屋にこもって観るのがベストな感じ。
これは当人たちは真剣でも端から見るとおかしい、一般的な恋愛模様を笑う映画。その笑いの延長線に、正義やパワー信仰や安全保障や国際関係までが乗っかってしまうトンデモ映画。
相変わらず、夢の送り手ライトマンはナニモノも信じていないようだ。その心の黒さ、絶望の深さが楽しく、また激しくオイラを打ちのめすのだ。
評価:10点
鑑賞環境:DVD(吹替)
2008-01-01 12:19:00 | 実写作品 | コメント(0) | トラックバック(0)