SCAT/くちずさむねこ(2007)

 

フラガール(2006年【日】)

【訂正懺悔編】
一日経って、3点から7点にUPしました。理由は末尾に。

薄いいいぃぃぃ〜〜〜ッ!
感想はもう、これに尽きる!

昭和40年、炭鉱閉山、地域再生、第3セクター、ハワイ、リストラ、落磐…これだけ要素の詰まった話なら、確かに幕之内弁当化するのは仕方がない。だがおかずの一品一品が全部うまくない。盛り合わせにも問題があって、メインとなるおかずが柴漬けやら佃煮やらに埋もれてしまい、箸をつける順序を間違えそうな構成上のミスがある。これはシナリオの問題。
律義なまでに『プリティ・リーグ』をパクった人物構成、画面、音楽(のインサートタイミング)。メインディッシュとなるはずの、フラガール周辺のドラマは多くが借りものだ。公開初日に早苗が乱入して来るんじゃないかと本気で心配したよ。この物語ならではのオリジナリティある場面はごく限られたシーンで、それはほとんど踊りに絡んだ部分なんだが…これがまた細切れにしすぎて楽しめない映像。ここが監督と、編集の問題。

本作のテーマは『ニューシネマ・パラダイス』を思わせるような、「地上の天国探し」であるわけで、そこにフォーカスするなら余計な枝葉は取り払って炭鉱の地獄、ハワイの天国の両面を見せてもよかったんじゃないかと思う(それでこそ「笑顔」の意味が重く効いてくる)。
地獄の番人たる会社幹部・組合長も出番が少なくキャラが薄いし、そういう町の組織構造が描かれていないので母親のプレッシャーも薄くなり、兄貴は単なる角の取れたいいヤツになっている。主人公も、周囲がこれでは熱演が際立たない。他のフラガールについては言わずもがな。あの展開では光りようがない。一口で言ってしまえば幕の内弁当なのに味のバラエティがないんだと思う。

そんな中、冒頭からしゃにむにフラガールになろうとしていた木村早苗役だけは光っていた。彼女が光らなければお話が成立しないので当然なんだが、他が霞むくらいバランス悪く光っている。後半の展開を考えると、これは少々やりすぎだと思った。
この話、蒼井優とトヨエツの兄妹を対等に扱って、先生を軸に同じくらいのエピソードを盛り込んでやれば(紋切り型になるだろうけど)ググッと盛り上げられたんじゃないかと思う。セットとロケーションがしっかりして、本物の鉱山団地が再現されていただけに、物語面の薄さが残念でならない。

本作の無罰的な地方事業ヨイショの側面は…まあいいかな。経営サイドの話、ほとんど出て来なかったし。炭鉱の閉山は、昭和史の後半をずっと引きずる大事件だったわけで、今の芦別・夕張のゴーストタウン化を知る身にとってはお気楽すぎてヘソで茶がわく、というのはキッチリ付け加えておきます。

●1日後の追記:
ラストの公演の途中、炭鉱へ入って行くトヨエツの笑顔がどうしても心から離れない。
彼だけが初日公演を見に行かないのは、これまで散々な無茶をやってきたシナリオからして、どうにもスッキリできないのだ。それを一日、仕事しながらずーっと考えていた。
そしたら、昨日のレビューで自分がちゃんと答えを書いてしまっていたのに気がついた。兄は死んで、地獄に行くのだ。
脚本の羽原大介は、こういう部分をベタに書きそうなタイプなので(って『ゲゲゲの鬼太郎』だけで判断してますが)、多分初稿では借金取りの男に撃たれて死んだんじゃないかな。そこに李監督が手を入れた可能性は大だ。なぜなら、兄の死は(脚本では表現しようのない)ダンスによって伏線回収されるから。
最後の(全編通して3度目になる)大トリのダンスが、「死と再生」を表現しているのは間違いないところ。炭鉱は亡び、ハワイになって甦る。この、映画のエンディング後10年間に起こるはずの物語を、兄の笑顔、妹の踊りにまで圧縮して表現してしまったのは正直凄いと思う。監督にとっては最後の15分だけが取りたかった映像で、後はどーでもよかったのかもしれない。
この最後の場面は、堂々として、媚びる事のない、誠実な炭鉱への弔いの物語だと思う。そこに至るまでの評価は変わりませんがね…。
評価:7点
鑑賞環境:地上波(邦画)
2007-10-08 18:49:46 | 実写作品 | コメント(3) | トラックバック(0)
あのラストの豊川悦司の場面。
唐突な場面転換と、思わせぶりなスローモーションですしね。
かなり暗示的です。
受信日時:2007-10-13 20:10:08( ユーカラ さん) 
豊川悦司の最後の場面は、何となく『エンゼルハート』のラストを思い浮かべました。

全体に散った伏線を整理してみると、ラストのダンス=天国では「悲しい時でも笑う」というこの映画独自のルールで貫かれている、と感じます。
なので今では、これは涙が止まらないような凄い悲劇を描いた…と捉えています。あのダンスの画が、実は全部ベタ泣かせの悲しい話で、みんな泣き顔なんだと。
そこで現実の炭鉱世界の「その後」の歴史も含めて、納まるべき場所へ全部ピシャッと納まったんですよね。

去年の『青』を観れなかったので(今頃悔しくなった)、李監督はこれが初めてなんですけど「記号のあしらいがうまいな」という印象です。自分でやれない部分をみんな借りモノで済ませたでしょうから、実力はまだこれから拝見という感じですが。
田中次郎氏は次作を心配してましたけど、オイラはけっこう楽しみになってきました。
受信日時:2007-10-13 21:38:46( エスねこ さん) 
ユーカラさん、かなりオイラに近いツボを突かれたんですね…徳永えりに比重をかけたのは、確かに前半を引っ張る駆動力になってくれてました。
ただ彼女は、土を知らない現代っ子な歩き方がダメでした。歩かなければ最高だったんだけどなあ。
受信日時:2007-10-14 03:49:57( エスねこ さん)