SCAT/くちずさむねこ(2007)

 

ブラッド・ダイヤモンド(2006年【米】)

ズゥイック、ナイスワーク!

英国流儀の硬派アフリカ冒険小説。政治・軍事問題とか父子愛などハリウッドの「お札」的パートはある。確かにあるんだが、全体の10%つまり15分を削ればハリウッド臭を完全に消せるだろう。おそらくは英国を宗主と仰ぐ南アフリカでの公開を念頭に置いたに違いない。南ア人の大佐が黒人と取引するために、アーチャーに向かって「さあ紹介してくれ」なんてほざくシーンは、その偽悪的な英国流儀に悶え死にそうになる。
そして、きっちり死にフラグが立っているローデシア人アーチャーに、ディカプリオを配したキャクティングの妙。ほとんど最後まで、彼が死ぬとは考えていなかった(最期の演技はちょっとアメリカ人っぽかった気もするが…)。

冒険小説というジャンルは、アフリカと共に育ってきた側面がある。この枠組みの中から生まれてきた要素である、異常に軽い人命/現地在住のヤバ気な雰囲気の白人主人公/強気 or 足手まといのヒロイン/誰も見た事のないすっげえ秘宝/次々と入れ替わる敵味方/人外魔境の広大な密林…猛獣は出なかったが…そういう、息絶えたかに思えた「100年前の物語セオリー」を堂々とブチ込んでくる。
だが500ページの長編小説に匹敵する内容を詰め込んだスレティックな展開は、21世紀ならではの激しいカット割による濃い密度を達成している。おそらくここまでのストーリー総重量を持った正統派冒険映画(要はインディとかじゃない奴)は、今まで存在できなかったんじゃないかと思う。つまり本作は、100年遅れてきたにも関わらず、アフリカ冒険映画の「ストーリー」の魅力を始めて発揮できた作品じゃないかと思う。
考えてみてほしい。400ページに満たない『宝島』を、今まで原作通りに完全映像化できた映画があったろうか。まあTVシリーズとか4時間以上使えば話は別だが、まず無理なのだ。古典的な冒険小説はというのは内容が実に濃いのだ。意外と本作は、新しい境地を開拓したのかもしれない。

実は観ていてずっと、「『ブラッド・ダイヤモンド』がこんなに面白いのに、どうして『トゥモロー・ワールド』は面白くなかったんだろう」と考え続けていた。あの映画は英国流の別ジャンルである《ディストピア小説》の枠組みにあるからだ。もうコテコテなくらいにね。
今のところオイラの結論としては、あの映画は「古い皮袋に新しい酒を盛った」んだと考える。あまりに内容がスペクタクルだから。物語の体はなしているが、魂が最近過ぎるのだ。
古い皮袋に古い酒。物語に新味を追求しなかったズゥイック監督の愚直さが、かえってこの映画を現代から引き離し、いつの時代も残酷であり続けたアフリカの歴史を俯瞰する高みにまで浮揚させていた。キチンとしたアフリカ映画は、21世紀に、この作品を基点として始まるのだ…と本気で信じたい思う。

注)
もちろんそれは「現実のアフリカ」を描いたものとは違うんだが。
あ、よく考えたら『ホテル・ルワンダ』と『ルワンダの涙』と『ラスト・キング・オブ・スコットランド』と『ツォツィ』観てねーや…セネガルを舞台にした短編映画『小さなビンタ』(昨年度のアカデミー短編部門でノミネート)は、楽しさの中に本当のアフリカの魂が垣間見えて、オイラの一押しアフリカ映画作品です。
評価:8点
鑑賞環境:インターネット(字幕)
2007-10-14 06:19:22 | 実写作品 | コメント(0) | トラックバック(0)