Menu
 > レビュワー
 > ゆき さんの口コミ一覧。18ページ目
ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 614
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

表示切替メニュー
レビュー関連 レビュー表示
レビュー表示(投票数)
その他レビュー表示
その他投稿関連 名セリフ・名シーン・小ネタ表示
キャスト・スタッフ名言表示
あらすじ・プロフィール表示
統計関連 製作国別レビュー統計
年代別レビュー統計
好みチェック 好みが近いレビュワー一覧
好みが近いレビュワーより抜粋したお勧め作品一覧
要望関連 作品新規登録 / 変更 要望表示
人物新規登録 / 変更 要望表示
(登録済)作品新規登録表示
(登録済)人物新規登録表示
予約データ 表示
評価順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031
投稿日付順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031
変更日付順1234567891011121314151617181920
2122232425262728293031
>> カレンダー表示
>> 通常表示
341.  アナザー プラネット 《ネタバレ》 
 様々な寓意を感じ取る事が出来ました。   主人公がトイレの落書きを懸命に消そうとする姿は、己の過去の罪を消したいという気持ちの表れなのだろうし、ラストにて出会った「もう一人の自分」が一歩前に踏み出して終わるのは「罪から逃げずに前を向いて歩き出す」事を示唆したハッピーエンドなのだと思われます。   気になったのは「何故ジョンではなく、もう一人の自分と出会ったのか?」という点ですね。  彼女達が全く同じ存在であるなら、もう一人の自分もジョンにチケットを譲っており、自分同士が出会う事は無いはずです。  単に視覚的な効果を重視したという可能性もありますが、恐らく両者は全く同じような過程を経るも「ジョンにチケットを受け取ってもらえたか否か」という決定的な差があるのではないでしょうか。  あるいは、もっと皮肉に「もう一人の自分はジョンに交通事故で家族を殺されたので、ジョンからチケットを譲られてやってきた」という可能性だってあるかも。  途中まで「これは二つの地球で起こった出来事を交互に描いているのか?」とも考えましたが、それが確定する描写が存在していないので(例えば、目も耳も不自由になり入院してしまったはずの同僚が、元気に通勤している姿を背景で見せるなど、いくらでもやりようはあります)推測の域を出ませんね。  そもそも、あんな近くに地球と同等の星が存在するのは重力の観点からして有り得ないので、あの星は彼女の生み出した妄想とか、何とでも言い張る事が出来そう。  作り手としても、あえて明確な答えは示さずに、受け手次第で色んな解釈が出来るように仕上げてみせたように思えます。   こういった「考えさせる映画」って、観客の「気付き」が要求されるというか、ともすれば「この映画の良さを発見出来た自分は優秀であり、この映画を高く評価出来ない人は発見する力が足りなかっただけである」という選民思想のようなものに繋がりかねないので、ちょっと苦手だったりもしますね。  でも、観賞後に誰かと「あの映画って、どう思う?」と語りたくなる魅力を秘めているのも確かです。  自分としては、総じて楽しめた時間の方が長かったし、ラストシーンからは前向きな解釈を得られたので、一応は満足。   どんな映画であれ「観客次第で名作にも駄作にも成り得る」ものなのでしょうが、本作はそんな具合に、作り手が受け手の感性に頼った面が大きい一品であるように感じられました。
[DVD(吹替)] 6点(2017-02-06 14:48:57)
342.  Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼 《ネタバレ》 
 観賞中(これはもしや「デクスター」の元ネタになった映画なのでは?)と思ったのですが、制作年度はこちらの方が後なのですね。  事前情報として「主人公の設定が斬新」と絶賛する評論家さんの言葉を仕入れていたりもしたのですが、その方は「デクスター」を知らなかったのだと思われます。  自分も、元ネタを知らずに同じような事を書いているのかも……と考えると、何だが気まずい思いに包まれたりもしました。  まぁ、そういうのは極力気にしないのが一番だなと、自らに言い聞かせたいところです。   主人公の別人格を、違う役者さんが演じている事。そして、その別人格との会話シーンにて、画面上は普通に喋っているのに、第三者には全く気付かれない(つまり会話は、あくまでも主人公の内面で行われている)事など、やや分かり難い点があるのは気になりましたが、総じて面白い作品でしたね。  こんな事いけないと思いつつ殺人衝動に負けてしまう様が、それこそアルコールやらギャンブルやらショッピングやらの誘惑に負けてしまう「普通の人」とも重なるように描かれており、本来なら理解出来ないであろう「殺人鬼」に感情移入させる事に成功しています。  正に「殺人依存症」といった感じであり、殺害後には性的快感を得ているという際どいシーンもあるのですが、それでも下品な印象は受けないのは、主演のケヴィン・コスナーの貫録ゆえなのでしょうね。  彼が紳士を演じてみせれば、こんな事をやっていても紳士に見えてしまうという形。  墓場で「ミスター・スミス」と会話する姿からは、一種のピカレスクロマンのような魅力さえ感じられました。   である以上、そのクオリティのまま綺麗に完結してくれたら良かったのですが……どうも未解決な部分が多いというか、続編を意識したかのような終わり方となっており、もどかしさも残ります。  結局、主人公の娘はどうなってしまうの? とか、あの女刑事に電話した以上は再会した時に疑われるんじゃない? とか、色々と気になる点が多いのです。  最後の「夢オチ」に関しても、少々安易に感じられるというか、これ一本で終わらせるなら「娘に殺されるオチ」の方が、まだ綺麗に纏まっていたんじゃなかろうかと思えました。  こういった終わり方の場合、やはり作品の満足度という点では不利ですね。   ケビン・コスナー本人はといえば 「当初は三部作の予定だった」 「ただ、僕自身は一作目で満足している」 「この作品だけでも自然な完結をしていると思う」  と語られているそうですが、自分としては二作目も三作目も観たくなってしまうような映画でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2017-02-06 10:39:20)(良:2票)
343.  クライムダウン 《ネタバレ》 
 映画「エラゴン」で主演を務めたエド・スペリーアスの数年後の姿を拝めるという、非常に貴重な一品。   自分としては、劇中で彼がどんな活躍をしてくれるのかに期待していたのですが……良い役とは言い難いものがありましたね。  一応、副主人公に近いポジションなのですが、どうにも憎まれ役というか「主人公の好感度を下げない為に、マイナスな言動を代わりに行うキャラクター」って感じなのです。  最後も(えっ? 死んだの?)って戸惑うくらいにアッサリ撃たれて退場するし……  何だか凄く不憫で、応援したくなりますね、エドさん。   それで映画本編の方はといえば、これが中々面白い佳作。  登山を楽しむ主人公達が、地中に女の子が埋められている事に気が付き、慌てて掘り起こして木箱を開けるシーンのドキドキ感なんて、凄く良かったですね。   その後に少しずつ謎が解き明かされていくのかと思いきや、かなり早い展開で「彼女は誘拐され、ここに閉じ込められていた」「誘拐犯の二人組は、すぐ近くにいて、銃を手に主人公達を追跡している」と分かるので、これにも吃驚。  謎解きを放棄した、追いかけっこに特化した作りだったとは、完全に予想外でした。   舞台が山の為か、危険な崖を降りるシーンもあるのですが、そこに関しては「急がなければいけないのに、危険だから慎重に、ゆっくり降りなければいけない」というのが何だかチグハグで、緊迫感を削いでいたように思えて、残念。  そんな崖のパートを過ぎて、河の急流に差し掛かる辺りからは、ようやく演出もスピーディーになり、以降はノンストップで楽しめたように思えます。   「追ってくる奴らの狙いは、その子だけだ」と言い出し、女の子を犠牲にして助かろうとするかと思われた男が、自ら囮になって他の皆を逃がしてあげる展開なんかも(そう来たか!)という感じで、実に好み。  誘拐犯の一人が「以前、人質の男の子と仲良くなってしまった事がある」と語り出し、その子が苦しまないように後ろから頭を撃ち抜いてやったと話す件なんかも、彼の恐ろしさと人間味を同時に感じられて、良い場面だったと思います。   最終的には、主人公と女の子の二人は何とか助かるので、ハッピーエンドと呼ぶ事も出来そうな本作品。  でも「実は女の子の父親が悪どい権力者であり、誘拐犯は彼の手によって無残に殺される」というオチまで付いているのは、ちょっと蛇足に感じられましたね。  誘拐された側が絶対的な正義ではない、という深みを持たせたかったのでしょうが(後味が悪くなっただけじゃない?)というのが正直な感想。   どちらかといえば、楽しめた場面の方が多いのですが(ここ、もうちょっと何とかなったらなぁ……)と細部が気になってしまう。  そんな映画でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2017-01-31 13:20:15)(良:1票)
344.  恋するベーカリー 《ネタバレ》 
 大好きな「ホリデイ」と同じ監督さんという事で、期待を込めて観賞。   女性目線で男二人と三角関係になるという、感情移入しにくいストーリーなのに、しっかり楽しむ事が出来て嬉しかったですね。  特に感心させられたのが、高齢の主人公に対し 「俺達、一緒に歳取るべきだ」 「年齢も君の魅力も一つだよ」  と男達が口説いてみせる件。  (うわぁ、これは言われたら嬉しいだろうなぁ……)と思えたし、普通なら負い目に感じそうな部分を肯定してあげるという、優しい作風である事が伝わってきて、ほのぼのとさせられました。  「元旦那がセックスフレンド」と笑いながら女友達に話す件なんかも、女性の逞しさと、姦しさまで感じられて、好きな場面です。   そんな具合に「これは良い映画だな」と途中までは思っていたのですが「元旦那とヨリを戻すのは止めにして、新しい恋人と良い感じになる」という結末には納得がいかず、全面的に肯定は出来なかったのが残念。  そもそも新しい恋人と急接近したのが「今の妻を優先させる元旦那への当てつけ」という動機にしか見えなかった時点で、あまり二人を応援出来なかったのですよね。  結果的に「元旦那は、今の妻と子供と別れる」「父と母が復縁すると思っていた我が子達を失望させる」という、二重の悲劇が起こってしまった訳で、それまでのコミカルな作風とのギャップが大き過ぎたように思えます。  元旦那が別れを告げてきた妻と子供の姿が、終盤には全く出て来ないというのも、何だかズルい気がして、受け入れ難い。  「傷付いた母子の姿が描かれたら、主人公が嫌な女に思われてしまうから」という理由なのは分かるのですが、だからこそ、そこは逃げずにやって欲しかったなぁ、と。   それでも後味が悪くなかったのは、やっぱりナンシー・マイヤーズ監督の演出が、自分の好みに合っていたからなのでしょうね。  登場人物全般に、何とも言えない愛嬌があって、妙に憎めない。  娘婿となるハーレイの存在なんて、特にお気に入りです。  一人だけ主人公達の不倫に気付いてしまい、他の家族にバレないようにと右往左往する姿が、実に愉快で、応援したくなる。  最後に、家族が分かり合えた事を喜び「僕も入れて」と一緒になって抱き合う姿も、微笑ましくて、温かい気持ちに浸れました。  本作のMVPには、彼を推したいところです。
[DVD(吹替)] 6点(2017-01-27 13:03:58)(良:1票)
345.  包帯クラブ 《ネタバレ》 
 監督が堤幸彦で、原作が天童荒太。  「この組み合わせ、上手くいくのかな?」と不安に思っていたのですが、杞憂に過ぎませんでしたね。   どうしてもコメディタッチな作風になってしまうんじゃないかという不安は「鬱屈とした展開が続いても、どこか可笑しみがあって、重苦しくならない」という形で、良い方向に昇華されていましたし、真面目な場面はキチンと真面目に撮るという切り替えが、しっかり行われている事にも感心。  職人監督と呼ぶに相応しい、手堅い仕事ぶりだったと思います。   幾つか不満点もあったのですが、その一つとして主人公達の身勝手さ、まだ未熟ゆえの「厨二病」っぽさが挙げられて、そこは観ていて痛々しく感じられましたね。  青春映画には付き物な話だし、だからこそリアルなのだとも考えられるのですが 「上から見下ろしてモノ言ってんじゃねぇよ」 「アンタが世間の何を知ってるって言うんだよ」  と不良娘が金持ちの友達に説教するシーンでは、どう見ても不良娘の方が「上から目線」で「世間知らず」じゃないかと思えたりして、感情移入し難いものがありました。  学校側に包帯クラブの活動がバレた際に、自分達がやった事じゃないとしらばっくれて「私達のこと信じてくれないんですか?」と泣き真似する件なんかは、正直言ってドン引き。  騒動を巻き起こして警察に捕まった後に「親父さんが偉い人だから釈放してもらえた」というオチが付く辺りも、凄く恰好悪かったです。  また、原作者の著作に関しては「家族狩り」と「永遠の仔」くらいしか読んでいないのですが、その二つに続いて子供の性的虐待が扱われていたものだから「またかよ」と、少々食傷気味になってしまう気持ちもありましたね。   それらに対し、良かった点はと言えば、まず「包帯クラブ」の活動を行う姿が、とても楽しそうであった事が挙げられます。  ともすれば「癒し」「許し」「救い」などのイメージばかりが先走って、宗教的な画面にもなってしまいそうなのに、あくまでも「若者達のクラブ活動」である事を忘れておらず、観ていて「自分もやってみたいな」と思わされるような魅力がありました。  特にお気に入りの「鉄棒に巻き付けた包帯を逆上がりさせる」件が、実は伏線であり、ラストシーンにて鮮やかに回収される流れなんて、凄く嬉しかったですね。  飲食店に皆で集まって、美味しそうに料理を頬張りながら「将来の夢」を語り合うというのも、微笑ましくて良い。   「誰も知らない」で抜群の存在感を放っていた柳楽優弥が、立派に成長した姿を見せてくれるのも嬉しかったですね。  彼が演じるディノが経験した事件と、その後の顛末に関しては「被害者だけでなく、加害者も、難を逃れた第三者さえもが、傷を負っている」という形になっており、色々と考えさせられるものがありました。  罪悪感を乗り越えて、久し振りに再会した男友達と交わす会話の内容が「包帯クラブに所属している女の子達は可愛いかどうか」なんていう下世話な内容である辺りも、実に良い。  「包帯も自分で巻けるようになった」という台詞によって、彼が自力で立ち直ったのだという事を、端的に示す辺りも上手かったと思います。   包帯そのものには傷を治す力なんてなかったとしても「自分の事を想って、包帯を巻いてくれた人がいる」という事実によって、人が癒される事もあるのだなと、しみじみ感じられる。  ちょっぴり痛みも伴うけれど、それ以上に優しい映画でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-01-25 13:30:07)(良:1票)
346.  パコと魔法の絵本 《ネタバレ》 
 「大人向けの絵本」という、一見すると矛盾した表現が似合う作品。   中島監督作といえば「下妻物語」も「嫌われ松子の一生」も、現代の寓話、大人の為の絵本というフレーズが似合いそうな趣きがありましたからね。  本作においても、感動と笑い、対話と活劇、それぞれの要素がバランス良く詰め込まれていたように思えます。   印象深いのは、人間としての「強さ」に拘っていた主人公の大貫が 「強くなきゃ、会社も興せなかったし、財産だって……」  と言いかけてから、手に入れた二つが絶対的な価値を持つものではないと悟ったように、言葉を詰まらせるシーン。  正直、ここに至るまでは (いくらなんでもオタクっぽさが濃過ぎる) (テンションの高いギャグシーンにも付いていけないし、この映画とは相性が悪い)  と、少々うんざりしながら観賞していただけに、ここでハッとさせられた感じでしたね。  劇中の大貫が「周りを見下していた傲慢な人間から、心を入れ替えて誠実になる」という変化を遂げる流れと、観客として、上手くシンクロ出来た気がします。   この手の「主人公の改心話」というのは王道ネタであり、決して目新しくはないのですが 「急に良い人ぶりやがって」 「今更善人ぶったって手遅れなんだよ」  という批判が、作中で行われている辺りも面白かったです。  人生という枠組みで考えてみた場合、晩年に良い人になったとしても、それまでの長い年月を悪人として過ごしたのだとすれば、彼を一概に「善人」という括りでは語れないでしょうからね。  物語としては、悪人から善人に転身した者の方が輝いてみえたりもしますが、実際は「一度も悪人にならず、生涯を善人で通した人」の方が、ずっと立派だよなぁ……なんて考えが浮かんできたりもしました。  こういった道徳的な側面というか「観る者に考えさせる」描写を挟んでいる辺りは、実に絵本らしくて良かったと思います。   個人的に最も好きなのは、落ちぶれた元子役と、彼のファンだった看護婦とのやり取り。 「その子は、ろくでなしの親と二人暮らしで、貧乏で、馬鹿で、不良で、生きてても、何にも良い事なくて……」 「だけど、その男の子を観ている時だけは、凄く幸せで……」 「アンタは、その子の夢だった」  という独白から、彼に「俳優」としての再起を促す件は、本当に良かったですね。  この映画におけるクライマックスは、ここだったんじゃないかと思ってしまうくらい。   それが影響しての事なのか、終盤にたっぷりと尺を取って描かれる「ガマ王子VSザリガニ魔人」の劇については(ちょっと、長過ぎじゃない?)と思えたりもして、残念。  「皆で劇をやろう!」と決意して、それぞれ稽古したりする件が一番盛り上がっていたと思うので、劇そのものは、もっと短く、アッサリ済ませた方が良かったんじゃないでしょうか。   それと、本作の特徴としては、感動と笑いを交互に提供するような演出が挙げられるのですが、劇の中でザリガニ王子を倒す件で「笑い」の方を選択し「ドリフかい!」で倒しちゃうのも、ちょっと好みとは違っていましたね。  それまで充分に笑いは取っていた訳だし、敵役を倒す場面はシリアスに、感動の方で〆て欲しいと願っていただけに(あぁ、そっちを選んだのかぁ……)と嘆息させられた形。   劇の最中、発作を起こして死んだと思われた大貫が、実は生きていたというオチの後 「死んだ方が良かったかにゃ?」 「そっちの方が感動的だし……」  なんて会話を交わして、笑いを取ったのに、大貫を改心させたパコの方が死んでしまうという「感動的」な展開に移行するのも、ちょっと悪趣味に思えてしまい、ノリ切れず。   最初は白け、途中からは大いに没頭し、終盤にて再び白けてしまったという形の為、何とも評価が難しいですね。  「観客をふるいにかける映画」なんて言葉がありますが、この映画で最後まで落ちる事なく楽しめた人にとっては、凄まじい傑作と思えるんじゃないでしょうか。  自分は残念ながら脱落してしまった訳ですが……  付いていけずに落とされた後にも、魅力の余韻が残る一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-01-25 06:39:11)(良:1票)
347.  赤穂城断絶 《ネタバレ》 
 深作監督の描く「仁義なき忠臣蔵」と聞き及び、さぞやバイオレンスな内容なのだろうなと予想していたのですが、思っていた以上に王道な作り。   吉良邸討ち入りのシーンでは血生臭さ全開だし、小林平八郎(渡瀬恒彦)と不破数右衛門(千葉真一)というファン感涙の戦いも用意されてはいるのですが、全ては「忠臣蔵」というオーソドックスな物語の枠に収まっている印象でしたね。  それだけ、この題材は器が大きいという事なのだろうなと納得し、安心感も覚える一方で「どうせなら、もっと破天荒な内容にして欲しかったなぁ」という物足りなさもあったりしました。   思うに、赤穂城にて「すわ籠城戦か」と盛り上がる件や、上述の討ち入りの件では確かに「この映画だからこその、荒々しい魅力」を感じられたのですが、吉良殺害を成功させた後の切腹までのシーンが妙に長く、そこで平坦な演出が続く関係上「結局は、数ある忠臣蔵映画の中の一つ」という印象に繋がってしまった気がしますね。  勿論、内蔵助の切腹シーンは迫力があったし、深作監督の面目躍如といった感じでしたが「討ち入りから切腹までの時間を、もっと短く纏めていれば、より鮮烈な印象を与えられたのではないかな……」と思ってしまったのも事実です。   それと、橋本平左衛門のエピソードは単体で観れば面白いのですが、メロドラマ的な悲劇となっており、この映画の中では浮いているように感じられたりもして、ちょっと残念。  浅野大学による御家再興が認められそうになっても、あまり嬉しそうな素振りを見せず、そちらよりも「吉良を討って浅野家は武門の家柄である事を示す」のに拘っていそうな武闘派な内蔵助に期待感が高まっていただけに、中盤以降どんどん出番が減ってしまうのが、何だか拍子抜けだったのですよね。  一時的に橋本が主役格となり、彼が死んで再び内蔵助に主点が戻るという構成なのが、どうも落ち着かない印象を受けてしまいました。   最後は、ともすればバッドエンドにも感じられそうな空気の中で「時代と共に人の心も変ったが、今もなお(赤穂四十七士に)香華を手向ける人が絶えない」というテロップを挟んだ辺りには、作り手の優しさが感じられましたね。  後味も悪くないし、印象に残る場面も多いという、中々の満足感が味わえる一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2017-01-12 23:45:55)
348.  9デイズ 《ネタバレ》 
 主人公が双子の兄弟に成り済ます為、チェコ語を習得したり、葉巻の吸い方やワインの飲み方を学んだりするパートが面白かったですね。  黒人男性版の「マイ・フェア・レディ」「プリティ・ウーマン」といった趣があるし、実際に劇中で後者の曲が流れたりするのだから、作り手としても意図した演出であったように思えます。   観賞前の期待通り、安心して楽しめる娯楽作品なのですが、ちょっと細かい点が気になったりもして、そこは残念。  例えば、高層ホテルにて刺客に襲われた主人公が、咄嗟に窓の外に逃げるというシーンがあるのですが、ここの件って、どう考えても窓の外の方が室内より危なかったりするんです。  何せ、足場が自分の靴ほどしかない訳で、実際に主人公は落ちそうになりながら、おっかなびっくり移動しているんですからね。  対するに、室内にいる刺客なんて全く強そうじゃなくて、主人公もガラス瓶で殴って撃退したはずなのに、わざわざ危険な窓の外に逃げたのだから、どうにも不自然。  恐らくは、その後の屋外での追いかけっこに繋げる為の脚本なのでしょうが、それならもっと自然にやって欲しかったなぁ……と、つい思ってしまいました。   「別人に成り済まして危険な取引を行う」という王道ネタを扱っているわりに「正体がバレそうになってドキドキさせられる」展開が無かった辺りも、不満ですね。  そういったベタな面白さを避けた以上は、他に何か目新しい面白さを提供してくれるのかなと思ったけれど、それも無し。  結果的に、映画の後半においては「主人公が別人に成り済ましている」という設定が忘れられてしまったかのようで、観ていて居心地が悪かったです。   そんな本作の白眉としては、主人公の母親の存在を挙げる事が出来そう。  最初は厳しい人なのかなと思ったら、実は息子に無償の愛を注いでいるのだと分かり、グッと来ちゃいましたね。  自分は、どうもこういうギャップのある描写に弱いみたいです。  息子の為に都合してあげたお金が「ビンゴの賞金250ドル」という辺りも、絶妙な塩梅。  「この母ちゃんの為にも頑張ってくれよ」と、主人公を応援する気持ちにさせられました。   それだけに、報酬の一部を母親に渡すラストシーンでは「一万ドルじゃなくて、九万ドルの方を母親にあげれば良いのに」と思わされたのですが……  実際にそうしようとしたら「私は一万で良い。九万は結婚資金に使いなさい」と叱られちゃう気もしますね。  最初は仲が悪かった堅物の相棒が、慣れないジョークを口にして祝福してくれたという、結婚式での風景も素敵。   後味が良い結末のお蔭で、なんだかんだ言っても満足出来た一品でした。
[DVD(字幕)] 6点(2017-01-10 12:54:20)(良:2票)
349.  予告犯 《ネタバレ》 
 この映画、面白いです。   面白いんですけど……序盤の拷問シーンで「悪趣味だなぁ」と思い、終盤の感動シーンで再び同じ感想を抱いてしまったので、どうも手放しでは褒められない内容。  「良い話にしようとしているのは分かるけど、無理あるよね?」という思いが浮かんで来てしまい、中々それが消え去ってくれなかったのです。   結局のところ、本作を楽しむ上でのキーポイントは「外国人の友達が死んでしまった」→「彼は死ぬ前に父親に会いたいと願っていた」→「自分達で探しても父親は見つからない」→「日本で一番捜査力が高いのは警察。死んだ友人の名前を騙って事件を起こし、彼らを動員して父親を探させよう」という、犯人達の行動を受け入れられるかどうかに尽きるのではないでしょうか。  自分としては「死んだ友人の名前を騙って」の部分が、ちょっと受け入れられなくて、本当に友達想いの奴なら、そんな事はしないだろうと白けてしまい、残念でしたね。  作中のテーマとしては「理由があって、頑張れない奴もいる」という、社会的弱者の存在を肯定するような意図があったのだと思われます。  けれど、就職活動はともかく、父親探しにおいて主人公達が「頑張れない」理由がハッキリしなくて、真っ当な方法では探せないと諦めて、死んだ友達に犯罪者の汚名を着せるのを承知の上で、楽な手段を選んだだけとしか思えないのです。  せめて「何年もかけて自力で探したけど手掛かりすら掴めなくて、止むを得ず最後の手段を選んだ」という形なら納得も出来るのですが、そういった過程を経ていないので、主人公達が努力を放棄したようにしか見えない。  酷く典型的な台詞になってしまうのですが「そんなやり方を、本当に生前の友人は望んでいたのか?」という疑問も浮かんできます。   それらの罪を償う為の自殺オチだったのでしょうが、終盤やたらと主人公を賛美する展開になっているものだから、どうも作り手との価値観のズレを感じました。  主人公と対峙し、その思想を否定する立場だった美人女刑事にまで「全てを予告し、やり遂げた」と嬉しそうに言わせたりしたのは、ちょっとやり過ぎだったんじゃないかなと。  生き残った犯人グループの仲間が、罪を全部主人公に被せて自分達だけ助かる件も、シニカルに描くのではなく「主人公の自己犠牲の美しさ」を強調するような演出だったりするものだから(えっ、そこで感動させようとするの?)と驚いてしまったくらい。   その他、主人公が会社での陰口に気が付く件なんかも、あまりにも非現実的な「周りの人間は皆、嫌な奴」過ぎて(これ、現実なの? それとも主人公がそういう被害妄想を抱いているって描写なの?)と戸惑ってしまったし、女刑事と犯人の追跡シーンでも(どうして応援を呼ばないんだ? 刑事なら何らかの連絡手段は確保しておくべきでは?)と集中力が削がれてしまった形でしたね。  そういった諸々が伏線なのかと思いきや、全然そんな事は無かったという意味も含めて、終盤の展開が本当に残念。   「作中で明かされた真相に納得がいかなかった」というパターンの為、ついつい文句を並べてしまいましたが、以下は良かった点を。  まず、導入部から展開がスピーディーで「異常な犯人、シンブンシの目的は何か?」と観客にも推理させていく流れは、とても楽しかったですね。  映画の構成としては、序盤は刑事側の目線で事件を追いかけていく形であり、中盤以降に主人公=犯人へと視線転換して、その背景が明かされる訳ですが、順番が逆だったら冗長な話になっていたでしょうし、この導入部には「掴みが上手い」と感心。  主演の生田斗真の力によって、新聞紙で覆面をして犯行予告するシーンでも、ダークヒーロー的な恰好良さが醸し出されており、作中で彼らの賛同者が生まれていく展開に、さほど不自然さを感じさせなかった辺りも有難かったです。  ここのハードルをクリアしてくれないと、作中の世界観が根底から崩れかねないので。   犯人グループが仲良くなっていく過程も、短いながらも丁寧に描かれており、青春ドラマとしての魅力も備えている形。  主人公の「友達が欲しい」という夢が叶っていたのを示す、和気藹々としたやり取りを、最後の最後に持って来て、カタルシスを与えて終わらせた辺りも、上手かったですね。  ここで「良い友達を持つ事が出来て、幸せだ」などと口に出しては言わせず、主人公の表情や音楽などで伝えてみせる演出は、本当に好み。  決してハッピーエンドではないはずなのに、それに近い味わいがありました。   色々と気になる点は多かったのですが、それらを差し引いても面白かったし、良い映画だったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-12-28 12:09:22)(良:1票)
350.  ライフ・オブ・デビッド・ゲイル 《ネタバレ》 
 クオリティの高さは分かるのだけど、どうにも作中の価値観やらメッセージやらが肌に合わなくて「面白い」と素直に言えないタイプの映画があります。  残念ながら本作もそんな一つとなってしまったみたいで、脚本の騙しのテクニックやら演出やらに感心させられつつも、観賞後は「うーむ」と腕を組んで考えさせられる破目になりました。   まず、この映画の最大のオチに関しては「無実の人が死刑された確かな証拠があれば、死刑停止に追い込める」という台詞をデビッド・ゲイルが耳にするシーンがある以上、多くの人が途中で気が付かれたのではないかな、と思います。  自分も、この台詞が飛び出す時点(映画が始まってから三十分程)でオチは読めていたので、衝撃という意味では薄かったのですが、ラストに長々と説明せず「デビッド・ゲイルも彼女が自殺であると承知の上であり、一連の計画の協力者であった」と映像で示すだけで、スパッと終わらせる演出は見事でしたね。  こういうパターンの場合、つい「こんな分かり易い伏線があるんだから、気が付くに決まっている」と作品を見下してしまいそうにもなりますが、ラストの演出で説明を最低限に済ます以上、このくらいのバランスで丁度良かったのではないでしょうか。  観客に対して、きちんと「推理する材料」を提示するという意味でも、非常に誠実な作りであったと思います。   で、上述の「肌に合わない」部分に関してなのですが……これ、どう考えても「死刑制度の問題点」を指摘しているとは思えないのですよね。  自分で死刑になるように行動しておいて「実は冤罪なのに殺されちゃいました」って、自業自得としか思えないし、この場合に明らかになった問題点とは「自ら積極的に死刑になろうと色々と工作した人間を死刑にしてしまう可能性がある」という話でしかない訳だから、台詞の通りに「死刑停止に追い込める」とは考えられないのです。   デビッド・ゲイルの動機としては「取材を受ける報酬として手にした大金を、別居中の妻と息子に贈りたい」「もうじき病死してしまう恋人と心中したい」という想いの方が強かったのではないかな、とも思えますが、劇中ではそれらの感情的な動機よりも、あくまで「死刑制度の是非」という点に重きが置かれている為、やっぱり「そんなやり方で死刑制度を廃止出来る訳ないじゃん」という結論に至ってしまう訳で、何とも中途半端。  本当に死刑制度の問題点を指摘したいなら、倫理的に許されないのを承知の上で「無関係な第三者を犯人に仕立て上げ、彼が必死に無実を訴えても死刑が宣告されるのを見届けてから、執行の直前に全てを自白する」という作戦を取った方が、よっぽど効果的だったのではないかと。   そんな困った人物である彼を、過度に美化する事は無く「公開討論番組で、知事に言い負かされた仕返しをしたかっただけ」「権力者を馬鹿にして、自分の方が利口だって証明したかっただけ」と示す描写も挟むなど、作り手の器の大きさというか、公平な視野を感じさせる辺りは、好ましく思えます。  それだけに、話の核となる部分から説得力が伝わってこなかった事が、実に勿体無く思える一品でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2016-12-22 10:36:31)
351.  パラサイト・バイティング 食人草 《ネタバレ》 
 面白いんだけど、それ以上に「痛い」映画。   特殊な植物の蔦が体内に侵入し、それを取り出そうと自らの身体を切り刻む女性のシーンなんて、もう画面から目を背けたくなるし、仮に背けたとしても嫌ぁ~な声と音がして容赦なく「痛み」を連想させてくるしで「そんなに丁寧に描写しなくても良いよ! 観客に痛みを伝えたりしないでよ!」と訴えたくなります。  そんな具合に、ともすれば不快感だけを味わう事になりそうな内容なのですが……  これが案外、しっかり楽しむ事が出来たのですよね。   まず、冒頭「災難に見舞われる前の、楽しい旅行風景」がキチンと描かれているのが好印象。  そして舞台となる遺跡を訪ねる際に、現地人から「あそこだけは止めておけ」という類の、お約束の台詞が飛び出す辺りが、何だかニヤリとさせられるのです。  作り手に対し「おっ、分かってるね」と拍手を送りたくなるような演出。    麻酔無しで脚を切り、これで何とか助かったかと思われたのに、その後に口から蔦が入り込んだ時の絶望感なんかも良かったですね。  じわじわと追い詰められていく描写が丁寧なので(あっ、これハッピーエンドは無理だな……)と、観客にも自然と受け入れさせてくれます。   そうして全滅も覚悟したところで、ヒロインだけは何とか遺跡からの脱出に成功するという結末は意外性がありましたし、途中(プレッシャーに押し潰されて、嫌な奴と化してしまうのでは?)と不安になったりもした一同のリーダー格、医学生のジェフが最後まで良い奴のまま、自ら囮になってヒロインを逃がしてみせるという展開も好みでした。  とにかく観ていて「痛い」と感じる場面が強烈なので、再見したくなる映画とは言い難いのですが(観て良かったな……)と、素直に思えましたね。   なお、DVD収録の別エンドでは、ヒロインも結局は死んでしまうという救いの無い結末なのですが、自分としては「何とか一人だけは助かった」という、本編の終わり方を支持したいところです。
[DVD(吹替)] 6点(2016-12-22 06:52:49)(良:1票)
352.  ダウト ~あるカトリック学校で~ 《ネタバレ》 
 こういった論戦を扱う場合、どうしても「性的虐待の疑惑を受ける神父」が悪であり「真実を追及するシスター」が善であるという印象を与える事は避けられないと思うのですが、この映画は非常にバランス感覚が巧みでしたね。  前者は子供達に優しい人気者で、古臭い考えの教会を変えようとしている革新派。  後者は子供達に厳しい偏屈者で、古き良き教会を守ろうとしている保守派という対比なのですから、つい前者に肩入れしたくなってしまう。  けれど演じているのが、如何にも裏がありそうなフィリップ・シーモア・ホフマンと、とても悪い人には見えないメリル・ストリープだったりするものだから、観客としては「どちらが正しいのか?」と固唾を呑んで見守る事になる訳です。   特に「上手いなぁ……」と感心させられたのが、生徒から取り上げたトランジスタラジオを愛用していると、シスターが嬉しそうに語る場面。  正直言って、それは最低だよと呆れちゃいましたし、それによって「このシスターは他人に厳しいだけで自分に甘いという、信用してはならない人物だ」という印象に繋がり、最後まで「神父とシスター、どちらが正しいのか分からない」と観客に適度な「疑惑」を与える効果があったと思います。  そもそも彼女は「この教会に悪影響を及ぼす神父を追い出せれば、それで良い」と考えているフシがあり、本当に性的虐待があったとすれば真っ先に優先すべき「少年を神父から守らなければいけない」という意思が感じ取れない為、どうしても感情移入を拒むものがありましたね。  他の教会に転任させても、そこで別の少年が犠牲になる可能性もある以上、神父を追い出すだけでは意味が無いはずです。  彼女が善人であるとは、最後まで思えませんでした。   結論を言うと、この映画では結局「真実」は不明なままです。  勿論、神父は限りなく黒に近い反応を示しているのですが、確たる証拠は劇中で提示されていません。  劇中の「たとえ確信を持ったとしても、それは感情だ。事実じゃない」という台詞にも象徴されていると思います。  そもそも、そんな「疑惑」を抱かれた時点で迷惑だし、一度不名誉な噂に晒されれば、それが事実無根であっても取り返しがつかなくなるという事は、神父の説教の中でも語られています。  過去を探られるのを嫌がった事だって「過去にも同じような噂が立った事があるので、それを知られたらますます自分の立場が悪くなる」というだけかも知れません。  悪く考えるなら「過去には過ちを犯していても、今回は無罪だった」という可能性もありますし、良く考えるなら「少年が同性愛者である事は気付いていたので、彼を疑惑の渦から守る為に自分は立ち去った」という可能性だってあると思います。  だからこそ、ラストシーンにてシスターが「本当に自分は、自分の行動は、自分の過去は、自分の信仰は、正しかったのか?」という「疑惑」を抱く形で映画が完結したのでしょう。   上述の通り、映画だけで判断するなら「疑わしきは罰せず」「神父は無罪である」となる訳ですが、現実世界にて「神父に性的虐待を受けていた少年が無数に存在する」という悲しい証拠が、これまた観客の判断を狂わせるというか「もしかしたら?」という「疑惑」をかき立てる訳で、本当に上手くて、そして狡い作品ですよね。  こういった具合に、煙に巻くというか、あえて真相を明らかにしない映画も嫌いではないのですが、本作は論戦をクライマックスに据えておきながら「神父もシスターも、どちらも勝者とは思えない」「神父は心に傷を負ったまま栄転し、シスターは目的を達成するも罪の意識を抱いている」という、痛み分けのような形であった事が、どうもスッキリしない。   この映画のテーマを考えれば、観客にも「疑惑」を残したままで終わらせるのが正解だったと思いますが……  自分としては明確な「真実」を示してもらいたかったなと、つい考えてしまいました。
[DVD(吹替)] 6点(2016-12-22 03:41:56)(良:1票)
353.  ワンダラーズ 《ネタバレ》 
 昔に一度観たっきりで、美しい思い出となっていた本作を久々に観賞。   恰好良くスカジャンを着こなす主人公、坊主頭の敵軍団などは、日本の不良漫画「クローズ」に与えた影響も大きそうですね。  その他、劇中曲が有名なものばかりである点など、当時は分からなかった事にも色々と気が付けて、新鮮な気持ちで映画を楽しめたと思います。   ただ、思い出の中では「青春映画の傑作」という、非常に素晴らしい作品として記憶されていたのですが、今改めて観返してみると、少々退屈に感じる部分もあったりして、ちょっと残念でしたね。  主人公達はひたすら恰好良くて魅力的というイメージがあったのですが、実際は情けない場面も多いし、今一つ感情移入出来ない言動も多かったりしたのです。  記憶にも鮮烈に残っていた、導入部の「Walk Like a Man」の素晴らしさ。  そして「The Wanderer」のリズムに乗せて次々に仲間が集まり、喧嘩をしに向かう場面などは、今見ても胸躍るものがあったのですが、それと同時に(あっ、この場面の恰好良いイメージだけを憶えていたんだな……)と自分でも気が付いちゃったりして、何だか切なくなってしまいました。  序盤で如何にも大物といった感じで登場したペリーが、中盤以降は特に活躍する事も無く「個人の力も、大きな集団(=社会、時代などの象徴)の前では無力」劇中曲の歌詞通りに「鉄の拳があっても、何の役にもたたない」という描かれ方をしている辺りも、今となっては少々陳腐というか、単なる期待外れにも思えてしまいます。   それでも「ワンダラーズは永遠だ」という台詞は、やっぱり感動的だと思いますし、子供を卒業して大人になる事への不安、時代の変化と個人の成長、そして友との別れなど、映画の中で描かれた諸々に対し、今でも胸が熱くなるものがあったのは確かです。  勝手に思い出を美化していただけなのか、あるいは自分がこの映画に没頭出来る純粋さを失ってしまったのか、理由は定かではありませんが、かつての「青春映画の傑作」から「結構面白い、古き良き映画」という印象に変わってしまった形ですね。   確かな満足感と、ほんのり寂しい気持ち。  それらを同時に味わう事が出来た二時間でありました。
[ビデオ(字幕)] 6点(2016-12-20 12:07:29)
354.  ブッチャー・ボーイ 《ネタバレ》 
 冒頭、大人になった主人公が子供時代の過ちを振り返る形式で映画は進んでいく訳ですが「僕とジョーの友情に首を突っ込んだ夫人が悪い」って、全然反省していない辺りが凄い。   この主人公、殺人の被害者となった夫人以外にも、他所者を「田舎っぺ」「ブタより醜い」と見下していたりして、とかく感情移入を拒む存在なのですよね。  そんな彼に呆れかえっていたはずなのに、観ている内に段々と感情移入させてしまうのだから、作り手の上手さを感じます。  父母を失うだけでなく「血の兄弟」「唯一で最高の友ジョー」と語り、大切にしていた親友からも絶交されてしまう主人公。  そんな彼は八つ当たりのように凶行に至る訳ですが、それが完全な狂気によるものとは思えず、一応主人公なりに理屈は通っているなと納得させられてしまうのだから、これはもう恐ろしい映画です。   少年愛嗜好があると思しき神父に、性的悪戯を受けそうになるシーンでは、逆襲してみせた彼にスカッとさせられたし「ジョーにウソを言わせた」事が何よりも許せないと怒るシーンでは、ついつい彼に肩入れしてしまう。  そんな具合に、巧みに感情移入させた上で主人公に「人殺し」をさせてしまう訳だから、観ているこちらまで罪悪感を抱いてしまうのですよね。   「エイリアンの侵略」「原爆による世界の終わり」「父母の美しい思い出を否定する現実」など、彼が殺人を犯したキッカケを大量に用意してみせて、その凶行に説得力を持たせているのも上手い。  上手いんだけど……それによって「殺人犯になるまでを疑似体験出来る映画」という形になっている訳だから、後味の悪さは折り紙付きです。   上述の通り、主人公には反省の色が全く窺えません。  ラストにおいても「もう悪党ではないで賞」を取ったから釈放された、としか感じていないのです。  「トラブルは、もう結構」という独白からするに、今後彼が犯罪に手を染める可能性は低いと思われます。  それでも、彼は許されるのだろうか、自分が殺した夫人に対して「悪い事をした」「可哀想だ」と考えたりする事は無いのだろうか、と非常に悲しい気持ちに襲われましたね。   聖母マリアが彼に渡した花、スノードロップの花言葉は「希望」そして「慰め」。  果たして彼に「希望」を与えるべきなのか、彼を「慰め」るのが正しい事なのか、と観る者に考えさせてくれる。  様々な意味で、問題作と呼ぶに相応しい一品でありました。
[ビデオ(字幕)] 6点(2016-12-15 22:48:18)(良:1票)
355.  サイド・エフェクト 《ネタバレ》 
 「女は小さい頃から演技を学ぶの」「多分、男が嘘を学ぶのと同じ頃に」という台詞が心に残ります。  映画が終わった後も、女は精神病院から解放される為に演技し続けなければいけないし、対する男が勝利出来たのは、嘘を吐いた御蔭。  医療問題、薬物依存をテーマに扱った社会派映画かと思いきや、騙し騙されのサスペンス映画であったという、この作品を象徴するような台詞でしたね。   序盤は重苦しい雰囲気で、これは苦手なタイプの映画かと警戒していたのですが、中盤から俄然面白くなり、以降は画面に釘付け。  エミリーが夫を刺殺したシーンの衝撃は凄かったですし、彼女が真実を告白する件も良かったと思います。  これは少々アンフェアで、人によっては不愉快に感じてしまう部分かも知れませんが、最初から視点を主人公のジョナサンに定めず、さながらエミリーの方が主人公であるかのように描いていたのが、巧妙な目眩ましとなっていましたね。  これによって、観客は彼女に自然と感情移入する形となり、騙されやすくなってしまう効果があったと思います。  自分としては、序盤の彼女の描き方が俯瞰に徹していたというか、内面描写にまでは踏み込んでいなかった点を考慮して、ギリギリセーフかと判定する次第。   そんな具合に「気持ち良く騙された!」「これは傑作だ」と大いに褒め称えたくなる一品なのですが、終盤の展開には不満もあり、残念でしたね。  幾ら何でも黒幕の女性がペラペラと喋り過ぎというか「証券詐欺に、殺人の共謀容疑」なんて丁寧に罪状まで言わせちゃって、それを逮捕の決め手にしちゃうだなんて、本当にガッカリ。  自白させる展開自体が間違っているとは思いませんが、もう少し時間を掛けるか(安易だなぁ……)と思わせない工夫が欲しかったところです。  せめて警官に「殺人の共謀容疑と証券詐欺で起訴します」と復唱させるのを止めるだけでも、少しは印象が違っていたのではないでしょうか。   結局、エミリーも精神病院に収監されて元の状態に戻っただけなので(何らかの手段でそこから脱出してしまうかも?)(主人公が復讐されてしまうかも?)と思うと、今一つ落ち着かなくて、ハッピーエンド色が薄いように感じられた辺りも残念。  失いかけた家族を取り戻す主人公の姿についても、詳しい過程が語られず「無事に元に戻りましたよ」と結果だけが示される形だったので、どうにもカタルシスを得られず仕舞いでした。   ソダーバーグ監督らしく、展開がスピーディーなのは長所でしょうし、種明かしを済ませた後は、スパッと短く終わらせるのも正解だとは思います。  それでも、もっと丁寧に描いて欲しかったなぁ……と、ついつい感じてしまった映画でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2016-12-15 07:35:04)(良:1票)
356.  サタンクロース 《ネタバレ》 
 クリスマスにサンタが人を殺しまくる映画といえば「悪魔のサンタクロース 惨殺の斧」などの前例があります。  けれど、あちらが「サンタの扮装をした殺人鬼」という扱いだったのに対し、こちらは本物のサンタという設定なのだから、よりインモラルですね。   煙突から家屋に侵入し、室内にいた人々を殺しまくる冒頭のシーンから、もう「掴みはOK」といった感じ。  こうして文字に起こしてみると、如何にも残酷な映画であるように思えますが、実際はといえば、軽快なBGMに乗せてスピーディーに、しかも様々な小道具を用いて楽しそうにサンタが殺していくものだから、どう見てもギャグにしかなっていないというバランスでしたね。  サンタクロースの恰好をスタイリッシュにアレンジして、さながらダークヒーローめいた趣きさえ漂わせている辺りも、実に効果的だったと思います。   ただ、それだけに終盤では上着を脱ぎ捨てて「サンタクロースの恰好」から外れてしまっているのが残念。  結末も「主人公達はサンタを倒す事が出来ず、北極に追い払うのが精一杯だった」という形であり、ちょっとスッキリしないものがあります。  まだまだ精神的に未熟な若者である主人公が、可愛らしいヒロインと共に「また現れるだろうけど、次も追い払ってみせる」と決意してみせた空気だったのは、成長を感じさせてくれるけれど、一応サンタを倒して決着をつけて「もし甦ってきたとしても、再び倒してみせる」という形にしても良かったじゃないか、と思えましたね。  続編を意識したのか、あるいはラストの空港でのやり取りを描きたかったのか、作り手の真意は不明ですが、もっと綺麗に完結させて欲しかったところです。   空飛ぶトナカイからプレゼント爆弾を投下するサンタの姿は、それだけでも「観て良かった」と思えるものがあるし「図書館では静かに」などのギャグも面白い。  ミニオーブン、胡桃割り人形などのアイテムの使い方も上手かったですね。  主人公とヒロインのコンビも「良い奴ら」であり、ともすればサンタ側に感情移入しそうになるのを引き止めて、素直に彼らを応援させてくれるのに成功していたかと思います。  ラストにて二人が結ばれる事も併せ、デートムービーとしての魅力を備えている辺りも素敵。   何もかも理想通りとはいかないけれど、全体的には楽しめた時間の方が、ずっと長かったという、それこそ現実のクリスマスのような映画でありました。
[DVD(吹替)] 6点(2016-12-13 20:00:18)(良:1票)
357.  四十七人の刺客 《ネタバレ》 
 とにかく展開が早い早い。  なんせ冒頭いきなり「大石内蔵助は既に藤沢を出て、鎌倉に潜入していた」とナレーションで語られるくらいですからね。  大石内蔵助とは何者なのか、何故鎌倉に潜入したのか、などの説明は放ったらかしにして、どんどんストーリーが進行していくという形。  忠臣蔵映画には上下巻に分かれている代物も珍しくない為、もしや下巻に相当するディスクから再生してしまったのだろうかと、確認してしまったくらいです。   全体的に「観客の皆は、忠臣蔵のストーリーくらい当然知っているよね?」という前提で作られているようであり、予備知識が備わっていない人にとっては不親切な作りにも思えましたね。  せっかくナレーションで色々と説明してくれているのに、それも「コレはこういう役職であり、この人はこういう人で~」と理解を促すような内容ではなく、あくまでも状況説明に留まっている感じ。   大石側と色部側の謀略戦にスポットが当てられているのは面白かったのですが、どちらかといえば宮沢りえ演じるヒロインとの恋模様が中心となっているのも、ちょっぴり不満。  幾らなんでも男女の年齢差があり過ぎて、アンバランスな組み合わせに思えるのに、描き方はといえば「普通の男と女」といった感じでスタンダートに仕上げられているのが、観ていて居心地が悪かったのですよね。  ラストシーンといい、ともすれば宮沢りえのアイドル映画と言えそうなくらいの登場比率なのですが、自分としては彼女は脇役に留めておいた方が良かったんじゃないか、と思えてしまいました。   その一方で「襲撃者に足音を消されぬよう、屋敷の周りに貝殻を敷き詰めておいたりして、入念な準備を整えた上で敵を返り討ちにする大石親子」などの場面は、実に良かったですね。  切り裂く時の音が空振りしているようにしか聞こえない点など「えっ?」と思わされる瞬間もありましたが、ハードボイルドな高倉内蔵助の魅力が堪能出来たワンシーンでした。   終盤にて、黒尽くめの刺客が吉良邸の門前に集い「四十七人」と総数を読み上げられる場面もテンションが上がりましたし「握り飯と水を補給する」「刃毀れに備えて替えの刀を用意しておく」といった兵站面を重視した描写も良い。  吉良屋敷に迷路が拵えてある点などは、冒頭で知らされた際には「えっ、何それ」「そんなコミカルな忠臣蔵だったの?」という戸惑いの方が大きかったのですが、それも実際に戦う場面では、予想していたよりもシリアスな見せ方で「殺し合い」という空気を決定的に損なってはおらず、上手いなぁと感心。  いざ討ち入りになってから、唐突に「実は吉良屋敷は迷路になっていたのだ」と種明かしされる形だったら、流石に「なんだそりゃ!」と衝撃を受けてしまい、テンションだだ下がりになっていたでしょうけど、この場合は映画が始まってすぐに「迷路になっているよ」と観客に教えておく事により、自然と消化されるのを待つというテクニックが用いられているのですよね。  それが効果を発揮してくれたみたいです。   ラストの大石の一言「知りとうない」に関しては、色々と解釈の分かれそうなところ。 「武士の意地を見せる為に決起したのだから、本当は真相など、どうでも良い」 「最初は真相を知りたいという気持ちもあったが、もはや自らの死も覚悟して討ち入りした以上、真相究明などは些事に過ぎない」  などと考える事も出来そうな感じでしたね。   以下は、自分なりの解釈。  「討たれる覚えはない」「いきなり浅野が喚いて、儂に切り掛かってきたのだ」「二人の間に遺恨などあろうはずがない」という吉良側の証言を信じるなら、恐らく真相は「浅野が乱心した」というものであり、吉良を含めた幕府側が口を噤んでいたのも、浅野の名誉を慮っての事だったのではないでしょうか。  つまり、大石が「知りとうない」と言い放ったのは「真相に興味がない」ではなく「真相を知りたくない」という意思表明。  吉良の口を永遠に塞ぐ事こそが、討ち入りの目的の一つだったのではないかな、と。  そもそも大石は情報戦の一環として「浅野内匠頭は賄賂を行わなかった正義の人である」という噂を流すなど、主君を美化しようとする意志が窺える男です。  内心では薄々「殿は乱心めされたのだ」と勘付きつつも、序盤で仲間に語り聞かせた通りの「優しい殿」であって欲しかったという願いゆえに、吉良の口から真相を聞かされる事を拒み、浅野のように派手に刀を振り下ろす事なく、冷静に突き殺してみせたのではないか、と感じられました。   もし、本当にそうであったとすれば、何とも切ない映画だと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-12-06 19:47:57)(良:1票)
358.  ミシシッピー・バーニング 《ネタバレ》 
 「町の黒人は幸せだった」「運動家が混乱させるまではな」という台詞が、非常に印象的。  差別を行う人々にとっては「黒人に白人と同じ権利を与えようとする行為」こそが悪であり、平和な町に混乱を齎す元凶なのだという事が伝わってくる、恐ろしい場面でしたね。   FBI側が絶対的な正義という訳ではなく「非合法な捜査を組織ぐるみで行う集団」としての面も描いている点は、好印象。  特にジーン・ハックマン演じる「ミスター・アンダーソン」に関しては、それが顕著であり「密造酒屋から賄賂を貰っていた」と平気で話すものだから、悪徳警官と称しても良さそうな感じです。  では、そんな彼が人種差別を目にして眠っていた正義感を目覚めさせる話なのかと思いきや、どうも少し違った印象を受けてしまいました。   それというのも、彼が本気で怒り、KKKを相手に鮮やかな逆転劇を決めてみせるキッカケというのが「黒人が殺された事」ではなく「白人女性がKKKメンバーから家庭内暴力を受けた事」だったりするのです。  個人的に親しくしており、不倫のような関係にあった女性が被害に遭ってから初めて本腰を入れるだなんて、正直「なんだそりゃ」と思ってしまい、終盤の展開にてカタルシスを得る事が出来ず、残念でした。    作中にて「消えたのが白人でなくても来てた?」という台詞をFBIに対して言わせている辺り、作り手としても意図的に「白人が白人の為に捜査を行っただけ」という主張を織り込んでいたのかも知れませんし、あるいは「黒人だけでなく女性も差別を受けているのだ」と示す効果があったのかも知れません。  ですが、映画として観た場合「黒人が殺されてしまう」→「白人が入院する」という流れで、後者の方が重大であるかのように描く演出は、流石にマズかったのではないでしょうか。  自分としては「人種差別を否定する人物の代表」であるところのウィレム・デフォー演じるウォード捜査官に、もっとスポットを当てて、彼が正攻法でKKKを追い詰めていくところが観たかったものです。   映画としてのクオリティは非常に高く、例えば導入部の水飲み場のシーンで一気に観客の興味を惹き付けるのも上手いし、KKKの襲撃を受けた主人公達が銃を手にして外に飛び出すシーンの緊迫感も凄まじい。  アンダーソンとウォードの正反対なコンビからは、バディムービーとしての面白さも感じられましたね。  レストランにて「黒人の席だ」と注意されても、気にせず座ってみせる白人のウォード捜査官という描写なんかも、非常にスマートで魅力的。  ラストにて明かされる犯人グループの量刑の軽さには、唯々呆然とさせられ、差別に対する怒りが込み上げてきましたし「見て見ぬふりをした者は皆、有罪だ」という一言にも、大いに頷かされるものがあります。   そんな風に、褒めるべき点が幾らでもあって、傑作と呼べそうな一品なのですが「それだけは、やっちゃいけないだろう」という終盤の展開があった為「結局のところ、白人本位の内容なんだ」との印象を拭い去る事が出来なかった、惜しい映画でありました。
[DVD(字幕)] 6点(2016-12-02 18:46:34)
359.  武士の一分 《ネタバレ》 
 姉妹作とも言うべき「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」については、何年も前に観賞済み。  何となく観そびれていた本作にも、ようやく手を出してみたのですが、上記二作と変わらず楽しむ事が出来ましたね。   とにもかくにも主演に「現代のアイドル俳優」というイメージが強過ぎる為、最初の内は「武士という割には軽過ぎる」という違和感もあったのですが、それが中盤以降の悲劇的な展開との落差を生む事に繋がっており、結果的には良かったと思います。  妻の加世、中間の徳平に軽口を叩く姿も、ちょっぴり嫌味なのに愛嬌がある辺りなんかは、正に木村拓哉という存在だからこそ、という感じ。   また、真っ当な殺陣の魅力に関しては一作目の「たそがれ清兵衛」で存分に描いている為、二作目と三作目においては「隠し剣」「盲目の武士の戦い」という変化球で攻めた辺りも正解だったのではないでしょうか。  歴代の中でも、間違いなく本作が一番不利な状況下での戦いであった為、前二作と同じ流れで最後は主人公が勝つだろうと安心しつつも「本当に勝てるの?」という緊張感を、適度に抱く事が出来たと思います。  あえて言うなら「決闘の場所の下調べくらいはしておくべきじゃないか」とも思えましたが、それをやるのは卑怯という価値観なのかなと、何とか納得出来る範疇でした。   それよりも個人的に残念であったのは、タイトルにもなっている「武士の一分」の使い方について。  復讐の動機は、妻が辱められた事にあると言い出せず「武士の一分としか申し上げられません」と絞り出すような声で訴える場面は凄く良かったと思うのですが、その後も「武士の一分」という言葉を繰り返し用いるものだから、ちょっと重みが薄れたように感じられてしまったのですよね。  全ては「あの御仁にも、武士の一分というものはあったのか」という台詞に繋げる為だったのかも知れませんが、それならせめて使用は二回までに留めて欲しかったなぁ、と。   脇役に関しては魅力的な顔触れが揃っており、本人に悪気は無くとも傍迷惑な叔母さんは妙に憎めなかったし、意外な名君であった殿様の存在感も良かったですね。  特に後者に関しては、主人公の失明後も「大儀」と一声掛けるだけであり、所詮は家臣の事など軽く考えている天上人なのだと示す場面があっただけに、その後に真相が明かされる場面には、完全に参ってしまいました。  家老の結論を覆し、藩主自ら主人公を庇ってみせたのだと判明する、あそこの件が、この映画のクライマックスだったのではないでしょうか。   結局、決闘については周りに知られぬまま、主人公の仇討ちが咎められる事も無く、離縁した妻とも再び結ばれるハッピーエンドを迎えた本作。  ですが、あの殿様であれば、たとえ事情を知ったとしても、きっと公明正大な処置を下されたのではないかな、と思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-11-17 12:10:58)(良:2票)
360.  金閣寺 《ネタバレ》 
 1958年の「炎上」に比べると、かなり原作に忠実に映像化されている一品。   特色としては、エロティックな表現が強まっている事が挙げられそうで「米兵に指示されて女の腹を踏みつける場面」「母が不義を働く姿を寝床から見つめる場面」などは、思わず目を背けたくなるような鮮烈さがありましたね。  これらが単なる「観客へのサービス」で終わらずに「主人公が金閣寺に火を点けた理由」とも密接に絡んでいる作りには感心させられましたが、それによって主人公が単なるマザコン青年にしか思えない形となっていたりもして、少々残念。   母親と、主人公の初恋の相手である「有為子」の比重が増している為、金閣寺の存在感というか、重要性が薄れてしまっている点も気になりましたね。  何せクライマックスの放火シーンにて、火を放った直後には母の乳房に吸い付く幻影を見ているし、最後の一言は「有為子」であるのだから、結局主人公が執着していたのは「女性」であって、金閣寺の「美」に対してではなかったのだな……と、寂しく思えてしまいました。   主人公の友人である鶴川についても、比較的出番を確保されてはいたのですが、原作にあったような「主人公と明るい昼の世界とをつなぐ一縷の糸」というほどの重要性は感じられず、単なる男友達という枠の中に収まっていて、どうにも物足りない。  原作を未読の方からすると、鶴川の葬式で泣いていた主人公の姿が「どうして、そこまで悲しむの?」と、不可解に思えたのではないでしょうか。  内面描写が主となる小説ではなく、映画で表現する以上は、破天荒な柏木の方にスポットを当てるのが正解なのかも知れませんが「炎上」に続けて扱いが悪かった鶴川というキャラクターが、何だか哀れに感じられましたね。  主人公と正反対に思えて、その実は非常に近しい性質を備え持っていた彼が「自殺」という道を選んだからこそ、原作におけるラストシーンの「死を拒み、生を選ぶ」行為の美しさが際立つ訳なのだから、そこは外して欲しくなかったところです。   そんな不満点もありましたが「この世界の全てを拒んでいる有為子の美しさ」「神聖な儀式のように、茶碗に母乳を注ぎ入れる女性」などの場面が、丁寧に映像化されている辺りは、素直に嬉しかったです。  舞い散る火花を見つめながら、息を切らして煙草を喫む主人公の姿なんかも、金閣寺を征服してみせたという達成感、ギラギラした野性的な魅力のようなものが感じられて、良かったですね。  原作とも「炎上」とも異なる魅力を備えた、しっかりと完成された一品であったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-30 03:09:02)
030.49%
110.16%
230.49%
3172.77%
4437.00%
512420.20%
620633.55%
712320.03%
86510.59%
9203.26%
1091.47%

全部

■ ヘルプ
© 1997 JTNEWS