8.この調子のいいイタリア男の恋愛話はラストのオチで一層印象が深くなった。単なる浮気男のやさしさに
幸せではない結婚をしているロシア女性は涙を流す。涙で壁に描いた線、枕についた涙の跡が彼女の純真さを示す。
浮気のつもりが本気になって策を弄してはるばるロシアまで会いに行き愛を誓ったのに、身辺整理のために戻った
妻の前ではそれも言い出せずあっさり約束を破ってしまう。このいい加減さにガックリするが、
息詰めて見るような妻とのやりとりと豹変振りのシーンが印象深い。
意気投合して話を聞いている中年男はこれを聞いて自分の恋愛話を語るが、こちらは誠実を絵に描いたような
涙ぐましい話。「愛してはいないけれど貞節を尽くす」という妻でも充実して満足していると語る男に、不誠実な
男は「自分の人生には何もなかった」と後悔の涙を流す。男の置かれている立場は最後に分かるが、明暗が明らかに
なる鮮やかなラストはことに印象深い。
コミカルに運ぶ話も美しい風景や音楽も上出来だが、、何といっても愛嬌のあるダメ男のマストロヤンニが素晴らしい。
現実的な女にとってやさしさも誠実さを伴わなければ「絵に描いたモチ」、(その心は)頂けません。