1.原作に不適切な表現があったことから反日映画とのレッテルを貼られて大変なバッシングに遭った不幸な作品ですが、作品内容は極めてフェアーなものだったと思います。本編は個人と個人のぶつかり合いに終始しており、決して日本を批判するものでもありません。さらには、日本に対する無差別爆撃の被害状況など通常のアメリカ映画が避けて通る描写にも果敢に挑んでおり、私生活でも平和活動に積極的なアンジェリーナ・ジョリーは作品にも一本筋を通しています。また日本人として面白かったのは、主人公の乗る爆撃機がゼロ戦に襲われる場面の恐怖心の演出であり、アメリカさんから見た戦争はこんな感じだったのかと興味深く感じました。
ただし、映画としては面白くありません。元から強いメンタルを持っていた主人公がただひたすら虐待に耐えるだけの内容であり、そこにドラマがないのです。主人公、主人公に暴力を振るう看守、凄惨な現場を眺める他の捕虜達、これら全当事者の誰にも何の変化もなく、これでは残酷描写を売りにしたゲテモノホラーと大差ありません。
この点については、アンジーの個人的な思想が作品にとってマイナスに働いたように感じます。アンジーはいわゆる進歩的な文化人であるため、アメリカ万歳映画にはしないという意図を持って本作を製作したと考えられます。それゆえに、主人公の持つ愛国心という重要なファクターが丸ごと落とされているために、話の通りが悪くなっているのです。主人公はなぜ暴力に屈服しなかったのか、日本当局からの懐柔案にも乗らなかったのか。それは愛国心ゆえのものだったのに、アンジーはあくまで個人のドラマとして本作を製作したために、暴力を振るう側も振るわれる側も何やってんだかよく分からない内容になっているのです。
また、歴史映画でありながらリアリティの造成にも失敗しています。前述した東京大空襲やゼロ戦の描写など、表面的な事実を描くことには一定の成果を挙げている一方で、本編においては実際に起こったことならではの生々しさというものがないのです。例えば、渡邊伍長が狂人の如く振る舞っている最中に、他の日本人看守達は一体何をしていたのか。虐待に参加するでもなく、上層部に告発するでもなく、無味無臭でそこに存在しているだけ。こうした細かい部分に演出の目が向いていないために、全体としてリアリティを感じられない話になっています。