14.おそらく車とは縁のない斜面で暮らす少年が、タイヤを密輸で越境させようとするが、タイヤはふるさとの側に転がり落ち、彼と弟とラバが未来の側に越境する、地雷原の広がる未来に。そういう話だ。イランのクルド民族の話だけど、障害者を持つ家族の話でもある。障害者を扱った映画って、いつもだとちょっと構えてしまうところがあるのだが、これはマッスグに入ってきた。生きることが苛酷なのは、ここでは障害者だけではないからか。このラバは姉が嫁入りする引きかえで手に入れたもので、姉の想いの代価になっている。だからラストの越境は、ここで戻ったり死んだりしては姉の想いが無駄になってしまうという後押しがあったからで、兄弟愛姉妹愛がここで一点に結ばれた、そこがいい。包囲する雪の白さの迫力。 【なんのかんの】さん [映画館(字幕)] 8点(2008-06-03 12:16:28) |
13.絶望的な環境の中でたくましく生きる子供たちの姿、などと言ってしまっては、かえってアリガチで安っぽくなるかもしれないが、本当にそうなんだからしょうがない(笑)。それがこれほど強い力を持っているのは、もちろんリアリティとかいうコトもあるんだろうけど(これまたアリガチな・・・)、しかし何と言っても、作品の背景に、人間の生命力と言うものに対する、無限の信頼、とでもいうべきものがあるからじゃなかろうか。周りの大人たちも、確かにいいヒトたち、親切なヒトたちばかりとは、到底言えないけれども、この環境では致し方なしか、と思えるウラにはやはり彼らの生命力というものがある。そして何と言っても、ラストシーン。有刺鉄線の柵(国境)と踏み越えていくモチーフは、『わが故郷の歌』とも共通のもの。痛々しくも無上の人間賛歌。 【鱗歌】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2007-12-03 00:25:32) (良:1票) |
12.過酷な状況の中生きる兄弟の姿を淡々と描く、しかしだからこそリアルにぐっと胸に響きます。12歳の子供が一家の大黒柱にならなければならない、死と隣り合わせの危険な仕事、さらには決して衛生的とはいえない医療環境。仕事に行った先で写真をくれたのもまた働く子供なんです。ドキュメンタリータッチではありますが、この映画はフィクションなのでしょう。でも、クルド人を含め世界の多くの場所でこの映画はリアルなのだと感じました。 【アンダルシア】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2005-11-29 20:10:01) |
11.相対性理論が溢れるシュールな世界。人生というものと本当の意味で戦っている人たちが、今私たちと同じ時間の中にいる。でもそこには相対性理論がある。同じなのに、違う。彼らは私たちとは全く違った時間の中に生きている。酔っぱらった馬の時間の中に生きている。2つの異質な時間の、80分の人為的な邂逅。そして、私たちの時間の為の便宜的なエンドロール。だけれどエンドロールの向こう側で、酔っぱらった馬の時間は、私たちの時間との束の間の邂逅にも気付かず、今も続く。 【ひのと】さん 8点(2004-10-12 05:21:05) (良:1票) |
10.クルド人の手で作られた初めてのクルド語の映画ということですけど、本作ではクルド民族「特有」の事情は一切描かれていません。極貧を必死に生き抜く子供達の映画は世界中で作られており(要するに、世界中が貧困に喘いでいるのです)、物語的にも珍しいものではありません。しかし、極めて映画的な演出や画作りがなされており、それらのジャンルの中では非常に優れていると思います。大地の張藝謀、砂漠のモフセン・マフマルバフ、そして山岳の新人バフマン・ゴバディといった感じでしょうか。特に、身体の小さな不具の長男と理想の身体を持つボディ・ビルダーのポスターの対比に、監督の冷徹で深い洞察力を感じました(並の監督ならこんなこと出来ない)。本作は単なるお涙頂戴映画ではありません、7点献上。 【sayzin】さん 7点(2004-09-14 23:14:52) (良:1票) |
9.母はお産で死亡、その上父が地雷で亡くなって孤児になった子供達。まだ12歳の次男が兄弟姉妹の生活を支えるため懸命に働く。 食べるだけでも精一杯なのに長男は難病で手術代も欲しいし妹は学校に通わせてやりたいと、危険で過酷な国境越えの密輸仕事をするアヨブはすでに一人前で父親代わり。 恵まれた暮らしの子供とは比べものにならないほどしっかりしてて大人っぽい。 こうした貧しい境遇にもかかわらず病気の兄をみんなが大切にし助け合って暮す優しさに心を打たれる。 【きのすけ】さんも言われてた「人生は苦労ばかり、、」という歌には、過酷な環境に 生まれ合わせた子供達の苦難の運命が見事に唄いこまれている。 これはドキュメンタリーではないけれど、緊張が続くイラン・イラクの国境地帯に暮すクルディスタンの人たちの生活は現実がこのとおりなんだろうと思う。至る所に地雷があって作物も作れず生活を脅かされ、ひいては子供達がこんな厳しい人生を強いられるのだと思うと、争いばかりしている大人ががつくづく愚かしい。 【キリコ】さん 8点(2004-09-10 19:56:44) (良:1票) |
8.イラン映画はその誠実さは伝わるものの堅苦しいところがちょっと苦手なのですが、この作品はマジッド・マジディに代表されるようなイラン映画とはかなり趣が違います。やはりクルドとイランは全然違うんだなぁ(当たり前か)。なんとなく昔見た「路」と言うトルコ映画を思い出しました。グッとこらえた感情が、それでも全身からにじみ出る子供たちの姿はまさにドキュメンタリーのよう。兄弟たちの為に必死で働くアヨブですが物理的に子供にはできないことってあるんですよね。厳しい自然と共に生きるのは彼らの宿命。だけど、紛争や地雷で親を亡くし、子供が急いで大人にならざるを得ないのは納得できません。厳しい生活は見ていてツラい。でもその感情は同情とは全然違うんです。誇り高く美しい彼らの顔を見て、毎日文句たらたらで生きている自分を恥じ入ってしまった映画でした。 【黒猫クロマティ】さん 8点(2004-09-08 14:15:57) (良:1票) |
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7.展開される過酷な世界に、成す術なく涙が溢れた。こんな経験は初めてでした。人は貧しいほどに助け合い生きているんだと言う事を殊更に痛感し、そして死と向かい合うことで己と孤独に対峙する。そんな中でも、マディをしっかと抱きアーメネの手を握り締めるアヨブの、地に足を付けた健気な姿に自然と涙する。・・なんといっても、潔いナチュラルな演出。。コレは驚嘆に値する!そして、あのラスト。左右を見渡し、少し戸惑いながらも踏み込んだ1歩は、一瞬であるかも知れないが希望に満ち満ちている。。 【れこば】さん 10点(2004-09-07 18:05:22) |
6.こういう、美しく凛とした人間の尊厳を見せ付けられた作品に関しては、うまく言葉が出ないです。どんなに貧しく生活が悲惨であろうとも、あの家族には「気高さ」がある、と思う。 【ぐるぐる】さん 8点(2004-09-05 21:27:09) (良:2票) |
5.何が辛いかというと、子供たちが辛い思いや悲しい思いをしなければならないということです。大人は現実から目を背けたり逃げたりするすべをもってるけど、子供たちはまっすぐに体当たりしてしまう。私はこれをドキュメンタリーだと思って、撮影後お金をもらったお兄ちゃんやお姉ちゃん、妹、マディくんがにっこり出来たと思いたい・・・(黒猫クロマティさん薦めて下さってありがとうございます~)。 【ジマイマ】さん 7点(2004-09-02 14:54:16) |
4.私はハリウッドのエンターテインメント映画が好きなのです。やっぱり面白く観れることって大事だと思うので。だから本作のような映画は苦手な部類なのですが…意外。良かったです。日本とあまりに違う生活につい見入ってしまう。何より、そこでの人々の生き方に感動を覚えました。特にアヨブお兄ちゃん!偉すぎる!こんなふうに魅力的な人をもっと観たいです。 【どろ】さん 8点(2004-09-02 03:02:35) |
3.病気の兄の手術代を稼ぐために、密輸品を運ぶ仕事をする12歳の少年。地雷や警備隊が待ち受けるイラクへの密輸の道中。酒を飲ませて「ラバ」に密輸品を運ばせる所からタイトルが付けられていますが、それならタイトルは「酔っぱらったラバの時間」の方がいいような・・。 映画が描写するあまりに過酷な描写に思わず目をそむけたくなったけれど、世界のどこかでこういう「現実」が起きているという事は心の片隅に止めておかなければならない、と思いまた・・。ラストシーン。初めは、ちょっと説明不足かと思ったけれど、後から思うと、「人間の強さ」や「希望」を暗示するものだったのでしょうか? 【ムレネコ】さん 3点(2003-11-15 10:53:24) |
2.またまたこんな監督が出てきてしまうのだから、本当に驚嘆すべしイラン映画界。クルディスタン出身のゴバディ監督は、あのサミラ・マフマルバフの「ブラック・ボード」にも自ら教師役で出ていたが、正直、較べられるものじゃない。映画好きなら、ぜひ見てほしい。損はさせないから。 【青人】さん 9点(2003-04-27 15:06:58) |
1.えっ!もぅ終わったの?上映時間1時間20分という、昨今の映画の中にあってこれはむしろ短編といってもいいほどの作品だが、いたずらにダラダラ長いばかりでさっぱり印象が残らない映画が多い中、これほど濃密な内容の作品は稀有だといえる。映画はイランとイラクの国境山岳地帯の寒村を舞台に、そこに住むクルド人たちの悲哀と、両親と死別し懸命に生きていこうとする幼い姉弟たちの姿を克明に描いていく。難病の兄を救おうと、大のおとなでも危険な密輸仕事を手伝う次男や、見知らぬ土地へ嫁がされる長女の姿に、貧しさゆえ互いに気遣い力を合わせて生きていこうとする子供たちのけなげさに胸打たれると同時に、地球の向こう側に厳しい現実が紛れも無く存在することを改めて思い知らされる。終盤、密輸のタイヤを運搬させるロバに、(おそらく寒さの気付けの為だろうか)酒を飲ませるシーンがあって、そのあと警備兵の待ち構える国境近くで本当に酔っぱらってしまった事から、次男らが死と直面する事となる。常に危険と隣り合わせで生き抜いていかなければならない彼らの長く苦しい闘いと、子供たちの行く末を暗示するかのように映画は終わる。テオ・アンゲロプロス作品を彷彿とさせる雪山の美しいシーンなど、セミ・ドキュメンタリーのような肌ざわりだが、あくまでもこれは劇映画なのだと理解するには、多少の時間を要するかも知れない。 【ドラえもん】さん 8点(2003-02-07 00:19:06) |