4.『マリエンバート』などの線、ヌーボーロマンって言うの? 何が真実か分からず途方に暮れるってのが芸術になる。各国語が交わされる。英仏独印ポルトガル。その迷宮感。舞台がインドで、行方不明になるにはうってつけの国だ。静けさが続いて主人公はぼそぼそとつぶやく。ゆっくりゆっくりネジを巻いていく緊張感。病院のゆっくり回る扇風機。山積みのカルテ。なんか『黒いオルフェ』にこんな雰囲気なかったっけ。バスの待合わせの占いのあたりから、ミステリアスな雰囲気が高まってくる。あなたはここにいない、というお告げ。そしてラストへ向けてだんだん「彼」の気配が濃くなっていくあたりが見どころと言えば見どころ。そして語りの中で彼と僕とが逆転し…。たしかにこういう物語の枠組みの中で、ある種の洗練を続けた作品ではありましょう。でもこういう世界に対する切実さがこっちにあんまりないもんだから、こういう「上品な洗練」をもっとナマのインドとぶつけたほうが面白いんじゃないか、と思ってしまうほうの人間なんで、やや猫に小判。ナマのインドから逃げて小さな世界に閉じてしまったもったいなさのほうが来てしまう。ちょっと面白かった発見は、インドって中世ヨーロッパが残ってるってことか。シューベルトの五重奏がいい感じなのは、やっぱり下地はヨーロッパなんだよな。