11.将校たちの決起の様子もそこそこに、映画はいきなり2月26日未明の襲撃事件で開始。いわば、部隊が投降するまでの膠着状態を描くような構成となっています。将校たちの想いや苦悩が作品の中心となる訳ですが、例えば岡本喜八監督の(原田眞人監督の、とは言わない)『日本のいちばん長い日』などが見せた、殆ど狂気寸前とも言うべき凄まじいばかりのテンションを思い起こすと、ずいぶん「静かな」映画だなあ、と。いや、出演陣の個々の熱演は確かにあるんですが、作品を通じて昇り詰めていくようなものがあまり無く。
巨大なオープンセットを駆使した撮影。この建物はベニヤ作りのハリボテなんかじゃないですよ、と言わんばかりに屋上に人を立たせたりもして、あるいはそこに戦車を何台も登場させたりして、大作を作ろうという意気込みは伝わってくるんですけどね(「忠臣蔵」の昭和初期版?)。屋外シーンで積雪が残っている様子を再現しているのも抜かりなし。なんだけど、そもそもの、襲撃事件中に降りしきる雪、あれをもうちょっと上手く描いてくれれば・・・雪の描写って、難しいですね。
膠着状態を延々と描くのも味気ない、ということなのか、回想風に将校たちと家族との様子が織り込まれたりして、彼らもそれぞれ家庭があり人生があるんだよ、というのはわかるのですが、これだけの描写ではさすがに中途半端で、心に食い込んでこない。襲撃シーンでも被害者側の家族が描かれたりしていて、作品の意図としては「家族」というものにも触れておきたい、んでしょうけど、これでは消化不良。
外伝的に、モックンと根津甚八とのエピソードが挿入され、ここは二人の静かな熱演が活きた印象的なシーンとなっておりました。あと、出番は多くありませんが、川谷拓三の別れの場面も印象的。実際のところ、「オールスター」的な映画でありつつ、個性的な役者を集めて各キャラの色分けもしっかりなされており、その辺りは悪くないと思いました。
昭和初期の風物の描き込みも、五社監督お手の物、といったところでしょうか。
という訳で、個々にイイなあ、と思う点はあるのですが、映画全体を通じては、やっぱり作品が弱いかなあ、と。
映画の印象が「静か」という事に関しては、劇伴音楽の用いられ方がやや控えめであることも影響していそうで、それでも要所要所は音楽がドラマを支えています。ただ、襲撃の際に火炎瓶が投げ込まれる場面での音楽は、ブラームス交響曲4番のパッサカリアの一部を元にしたパロディ風の音楽で、こういうのがダメという気は無いですけど、個人的には正直、気が散っちゃうんですよね。。。