124.無類の“ホラー映画嫌い”なので、映画史上に残る超有名作品でありながら、ずうっと敬遠してきた作品の一つだった。
ただ、三十路を越えていい大人の映画ファンが、「怖い」からといって問答無用に毛嫌いするのもいかがなものかと思い始めていた。
そんな折、劇場で間もなく公開されるリメイク版の予告を観て、ちょっと気になったので、今作のジャケットを“初めて”手に取った。
「あー主演はシシー・スペイセクなんだ」とか「え、デ・パルマ監督作なの!?」と、おおよそ映画ファンらしくない無知ぶりを露呈しつつ、初鑑賞に至った。
率直な感想としてまず感じたことは、「これはホラー映画なのか?」という疑問。
恐ろしい部分は確かに恐ろしいけれど、それよりも哀しい少女の哀しい青春映画ということに対してのインパクトの方がずっと大きかった。
ただ普通でいたかった少女が、あらゆる不遇の中でもがき苦しみ、ほんの一瞬垣間見た光の眩い美しさと、即座に閉ざされる果てしない悲劇。
「恐怖」によるインパクトはあくまで装飾的なものであり、主人公の少女のめくるめく悲哀に胸が締め付けられたことは、本当に想定外のことだった。
その映画世界にはやはり巨匠ブライアン・デ・パルマ監督の多彩なカメラワークによる映画術が光る。
おぞましい場面はどこまでもおぞましく、一転して美しい場面はどこまでも美しい。
その映像的なギャップは、少女の心象風景そのものをまさに映し出していて、「流石」の一言に尽きる。
そして何と言っても主人公“キャリー”を演じたシシー・スペイセクが素晴らしい。
不遇の鬱積にまみれた序盤の姿では、大衆から拒絶されるにある意味相応しい“歪さ”をこの上なく体現し、一転、光を追い求め彼女の人生における最高の「舞台」に駆け上がる姿は、目を疑う美しさに溢れている。
そしてクライマックスにおける“悲劇的大解放”に伴う怒りと憎しみと豚の血にまみれたあの姿!
映画としては、展開的に唐突で説明不足な部分は多々あるのだけれど、この主演女優の奇跡的な表現力が、そのすべてを打ち消しているとさえ思えた。
どの映画も突き詰めればそうなのだろうけれど、この映画は特にどういう「解釈」をするかどうかで賛否は大いに分かれる作品だと思う。
また数多の知識を踏まえて繰り返し観る程に、その解釈に深みが生まれ、味わい深くなる作品だとも思う。