1.《ネタバレ》 恋愛映画としては正直よくあるものだなーという印象を受けました。が、ラストの歌と「このレコード、食べちゃっていいからね」が最後の最後でこの作品を深く、彩りのあるものにしてくれたと感じました。
まずは歌。個人的な好みですが、歌詞で聴かせる歌というのが大好きです。時かけの実写版みたいだなぁとなんとなく二番煎じ感で見ていたのですが、陸のノートで葵海を何度も死なせてしまっているのがわかった時、時間を戻せるレコードがあるのに陸の母は早くに亡くなっていることに気づいた時、そして葵海はやはり助からないという結末を迎えた時、とっくに二番煎じ感は無くなっていました。そういったストーリーを全て含んだ上でのラストのあの歌の歌詞は反則です。少し若者向けにラブコメ感やご都合主義がありましたがあえて深くは突っ込みますまい。ひとつのヒューマンドラマとして楽しめました。
そして「このレコード、食べちゃっていいからね」。最初このレコードもチョコレートで出来ていると分からなかったのですが、そのセリフでそうなんだと。かつて陸がやったチョコレートレコードのオマージュなのですが、亡くなった最愛の人からのメッセージなんて針で擦り切れるまで何度も何度も聞きたい、まして食べてしまうなんて出来るわけがない。そんなものをチョコレートで作るなんて、すごく残酷で、でもはっきり毅然とした「前を向け」というメッセージなんだなと思いました。
思えば今の世の中ってこれと全く真逆だと感じます。昔からある卒業アルバムや現像された写真などはいざ知らず、今は身の回りには途方もない容量の記録媒体やクラウドサービス、SNSなどが溢れ返り、人々は少しでも気になるものはすぐ写真や動画に撮りそれを保存し、誰かと共有する。きっと探せばかなり古いメールや写真のデータなどみなさん結構あるんではないでしょうか。
私たちはそういうものを保存して、所有して、なんだか財産が増えたような気になって安心する傾向があるように感じます。別にそれ自体が悪いことだとは思いません。そういう私もすぐ何かを写真で撮ったりするタイプなので。ですがこの映画はそうではなく、次々現れる出来事や人との出会いを、何十年も保管できるハードディスクに保存しておしまいにするのではなく、すぐ消えるチョコレートだと思って今すぐ全力で楽しみなさいと言っているように感じました。
本当にそんな意図で作られた映画かはわかりませんが、私はそんな意味で捉えて楽しむことができました。もし製作された監督さんなどの意図と違っていましたらすみません。あしからずご了承のほど。