19.《ネタバレ》 随分久し振りに見ました。何十年振りだろう。でもやっぱり面白い。
森田監督はわざと松田優作に何十回もNGを出して現場の空気を悪化させたり、作中に一切音楽を流さない等、持ち味であるシュールさをさらにジメッとした方向に振り切り、この湿気の中にコメディを落とし込むという斬新な映画に仕立て上げた。これに出演している伊丹十三が直後に監督・脚本を手掛けた「お葬式」にこうしたシュールコメディ色を応用しているが、日本アカデミー4部門受賞と高い評価を得ている。
思えば森田監督が最も高い評価を得たと言えるこの「家族ゲーム」で確立したカラーが、のちの氏の作品にあまり活かされていない気がして残念でならない。監督デビュー3年目の1983年にしてこの最高傑作を作り上げたのち、次に高評価を得るのは16年目、1996年の「ハル」まで待つ事となる。以降も何とも言えない微妙な映画を作り続け、30年に及ぶ監督稼業に幕を閉じた。一体何が足りなかったのだろう。
「家族ゲーム」に次ぐ氏の傑作は多分、監督デビュー作の「の・ようなもの」になるのだろうが、この2作に共通するのは圧倒的な魅力を放つ名優の存在と、さらに脇を固めるもう一人の名優である。カリスマが2人、詰め込まれているのだ。
「の・ようなもの」の主演はこれがデビューとなる伊藤克信であるが、青々しい彼の演技がこの映画の評価を押し上げた大きな要因であると同時に、それをさらに凌駕する魅力を放つのが相手役の秋吉久美子である。出番は伊藤に比べ少ないものの、逞しさの中にも哀愁を感じさせる飄々とした風俗嬢を演じた秋吉の魅力がイコールこの映画のイメージ、評価と言える。この2人の共演なくして「の・ようなもの」の高評価は有り得ない。
同じく「家族ゲーム」も松田優作というカリスマが放つ魅力、圧倒的な存在感、演技力、個性がすなわちこの映画のカラーそのものと言える。宮川一朗太の横顔にゆっくりと近付きぼそぼそと呟く様は、優作の代表作の一つである怪作「野獣死すべし」伊達邦彦のオマージュに他ならない。優作が熱演した犯罪者・伊達邦彦は見た者全てが真似したくなる強烈なキャラクターであり、ギャグの一歩手前と言える程の怪演である。森田監督がコメディに落とし込みたがる気持ちも十二分に理解出来る。我々はまた「あの優作」に会えた事によりニヤリとするのだ。
さらにこの「家族ゲーム」には優作の他にもう一人、華やかな魅力を放つ名優が存在する。由紀さおりである。元々ドリフのコントにてその名演技は認識される所ではあったが、この時既に三十代後半であったとは思えない若々しさと美貌がアップになるたび際立つ。こんなに綺麗な人だったのかと驚かされるばかりだ。さらに家族ばかりか同じマンションの住人にも困らされ、やかんがピーピー音を鳴らす最中に電話が鳴り響き、追い詰められおたおたする役どころが萌えに拍車を掛ける。思わず手を差し伸べて不倫したくなる団地妻キャラに仕上がっている。主演の優作を押しのけ堂々エンディングは由紀さおりの居眠りでスタッフロール。話を回しているのがメインであるはずの宮川一朗太から母親の由紀さおりに移行している事にこの時気付かされる。
名作はいかに魅力的なキャラクターを作り上げるかに懸かっていると言っても過言ではない。この映画が改めてそれを思い知らせてくれる。さらにそれが2人いれば、名作は傑作になるのだ。