1.《ネタバレ》 もう少しサスペンスなのかなと思ったけど、予想以上に「夫婦危機モノ」でした。夫婦危機モノも好きなのでそこは問題なし。夫婦の問題は冒頭ではあまり示唆されないまま(でも大音量音楽が鳴り響く不穏さはすごい)、裁判の過程を通して、さまざまな証言者の登場によって見えてくる。夫婦ともに「創作」に関わる同業者夫婦(どうやらもともとは夫のほうが師匠的な立場だったのが、ある事件を機に逆転してしまった)であり、障害を持つ息子がいて、そしてフランス人とドイツ人の「国際結婚」で日常的には英語で会話しているという環境・・・夫婦の「対等な関係」とは何か、親の責任と子の自立、他者を媒介する「共通言語」の存在など、どの設定も現代社会のいろいろなあり方を象徴している。それがものすんごくパーソナルな関係性のなかに埋め込まれていて、しかもそれぞれの証言者の主観で語られるものだから、溝やズレや矛盾だらけで、いっこうに全体像は見えてこない。・・というか結果的には、人間関係の、そして他者の全体像が見えないなかで、私たちはどう生きるんでしょうか、と問いかけた映画でした。その答えはなかなかシンプルではありますが、納得感はある。
昔、身近な人が巻き込まれた事件の刑事裁判を傍聴し続けたことがあるのですが、その裁判の感覚にとても近い。いろんな物的証拠や証言は並んでも、最後にそこに首尾一貫した結論が現れるわけではない。そんな不確かな現実に、当時はものすごい無力感を感じたものですが、この映画の結論は、そんな状況での一筋の希望にも見えます。誰もが面白いと思える映画ではないと思いますが、個人的には勇気をもらえる、よい映画でした。