1.《ネタバレ》 映画館のあちこちから鼻をすする音が聞こえました。
自分も恥ずかしながら、ハンカチで、号泣しそうな顔の筋肉を押さえて涙を拭きました。
チュン少年役のタン・ユン君、彼の演奏する姿だけでなく、バイオリンを抱えて走る姿に、十代の少年だけが持つ生命力や躍動感が満ち溢れ、私も彼と一緒に北京の街を駈けている気持ちになりました。
それにしてもチェン・カイコー監督、巧いですね。劇中の音楽に関しては様々なことがパンフレットにも記載されていたのであえて書きませんが、私が心惹かれたのはカメラワーク。この映画にはナレーションがまったくありません。必要ないからです。すべて映像と音楽で説明されます。それでも十分なのです。たとえば、チュンのためにビクビクしながら高層ビルの清掃の仕事をする父リウのシーン。その赤茶けた素朴な横顔と無機質なコンクリートの対比で、見ている我々は、改めて中国の急激過ぎる変化を実感させられます。
また、細かいカット割りの部分とワンカットで綴る部分の緩急のつけ方が絶妙でした。田舎に帰る父との別れのシーンは観客の視点そのものとカメラの視点が見事に一致して、さらに涙腺を刺激されてしまいました。
ぜひぜひ、もっと多くの人に観て欲しい一本だなと思いました。