1.《ネタバレ》 限りなく苦いコメディであり、アレンの自己客体化の神髄が味わえる。この映画が「笑える」のは彼の透徹した目が人間の肉体を貫いて、その心を捉えているからだ。この映画で、僕は彼と共に感動し、彼と共に喜び、彼と共に悲しむことができた。
映画のテーマは、彼の十八番の「インテリ恋愛模様」なのだが、本作が特に優れているのは、効果的に手持ちカメラを使った点と観客を精神分析医(=神)の立場に配置したことである。観客は登場人物一人ひとりの意識の中(あくまでも彼らが自己分析した自己に止まるが)に入り込むことが出来る。赤裸々な人間の感情をこれほど捉えた映画は今までに観たことがない。アレンの目線はどこまでも「男性的」なので女性には理解できない部分があるかもしれないが、彼の描くジュディは怖ろしいほどリアルで、彼女は男から見た知的な女の魅力と面倒くささを体現していた。サリーやレインの描き方もうまい。まだ観ていない彼の映画があることが幸せだ。