1.吸血鬼映画というと退屈だったり、ストーリーが破綻したりとロクな作品に巡り会えなかった。
ところがこのテレンス・フィッシャーの傑作は面白かった。
ストーリーは基本的にブラム・ストーカーの原作に沿った形だが、ジョナサン・ハーカーがドラキュラに出会う前にヘルシングに出会っている事、
ヘルシングの教えによって自ら吸血鬼を退治してしまうという大活躍だ。
そのヴァン・ヘルシング教授も眼鏡に老骨どころかバリバリに若い青年。
まるでブラム・ストーカー版のエピローグとも言うべき若さに満ち溢れている。
ピーター・カッシングのキビキビしたエネルギー、クリストファー・リーの不気味な闇を徐々に見せていく様子。
初対面はいかにも吸血鬼というオーラが無い。
何処にでもいそうな平凡な顔何だよな。
ところが「血」を前にするとその恐ろしき本能を剥き出しにしてくる。
見事な演技だ。
気品に溢れた仕草と演技、イギリスを代表する紳士の中の紳士です。
少女もレディもマダムも揃い踏み。
血の演出も過剰じゃないし、程よい血の気。
輸血のシーンや狼狽えるメイドの演技も光る。裏助演女優かも。
グロてすくな描写も極力避けるなど、こんなに上品な吸血鬼映画はトッド・ブラウニングの「ドラキュラ」以来だ。
ゴシックテイストの美しさ、能動的でテンポの良いストーリー。
グラナダTVの「シャーロック・ホームズの冒険」といい、派手さが無い変わりに丁寧で上品な作品作りがイギリスの素晴らしさ。
正しく俺の待ち望んだ「ドラキュラ」だ。
ラストの畳み掛けも凄い。
逃げるドラキュラ、そんな奴にはもれなく十字架のプレゼント(棺桶に)。
馬車は急ぐ! おっさん涙目。
逃げ場の無くなったドラキュラ、挙句にはミナを生き埋めにしようとする。
教授と伯爵の一騎打ち。
燭台のクロスがカッコイイ。
灰燼の中に埋もれる指輪が何とも言えない・・・あっという間の1時間20分。堪能させて貰った。