3.夕景の街中にあるガスタンク。十字の格子が浮かび上がる部屋。木々のざわめき。
半透明なレースカーテンの白の揺れ。風にはためく、壁に貼られたモノクロ写真。
何気ない風景のようでいて、その佇まいだけで不穏な気配を濃密に湛える画面の
息遣いがことごとく心をざわつかせる。
そして人物の表情が見えるか見えないかの半逆光の加減が絶妙で、
その無表情と陰影はキャラクターの心理を読み取らせない。
ゆえに本作は、物語的にも画面展開的にも全く予断を許さない。
それだけに、突発的な暴力が炸裂する刹那のインパクトは見る者を戦慄させ、
静かに流れ出す『煙が目に沁みる』のレコード音の情感に
訳も分からないまま心を動かされてしまう。
80年代の空気をすくい取りながら、まるで古さを感じさせない。