1.《ネタバレ》 面白い。泣いた。笑った。おそらく10年後にはツタヤで掘り出しモノの作品として紹介されるに違いない。無人島を都会のど真ん中に持ってきたアイデアの勝利といえる。リアルティはさほど重視されておらず、「都会の無人島」は、大勢の人に囲まれながら、孤独を抱える現代人のメタファーになっている。従って共感しやすい。周りが人でいっぱいで賑やかなのにその無人島から出られない男、バカバカしくも、観客はその男の境遇に自分自身を投影させてしまうことになるだろう。男は自殺をしたかった。なのに無人島で暮らすうちに生に対する執着が強くなってくる。そもそも人はなぜ自殺するのでしょうか?生存本能が希薄になるからです。もはや現代人は水を手に入れただけで歓喜することはできす、衣食住を手に入れた喜びも忘れ、次は愛や地位、名誉、自己実現、さまざまなモノを欲しがり、行き着くところはどこなのか分からない。精神の充実と引き換えに動物としての本能が失われつつある。男があひるの中に住む場所を見いだしたときの喜びや、自作で食料を手に入れたときの涙は、生きる本質だということである。一方ひきこもり女のほうは、当然のことながら、無人島よりも快適な生活をおくっている。欲しいものはマウスをクリックするだけで簡単に手に入る。が、生きる希望を失っている。対極にある2人の生活を眺めていると、ストレス社会を行きぬくためのヒントが見えてくる。人は何か大きなモノを失ったほうが逆に生命力が増大することがある。もし自殺する暇があるならば、その前に一度全部リセットしてみるのもいいかもしれない。韓国で年2回行なわれる対北朝鮮想定の訓練を取り入れたことも斬新なアイデアだった。女の表現した言葉を借りるならば、韓国が誰もいない「月の世界」に変る瞬間だ。そんな雰囲気のなかで、主役の2人の男女がはじめて出会う。なんと映画の終わるラスト5分前である。閉じ込められて出られなかった男と、自らを閉じ込めて出るのを怖がっていた女、2人がお互いの作り出した無人島から脱出し、月の世界で出会う─。単なるコメディではみられない暗示に満ちた作品になっている。これは高得点だ。無人島に出前を持っていた仕事熱心な青年にも加点しておこう。