55.この映画を見て「恐くない」と言う人がいるのは、ちょっと信じ難いが、よく考えたら当たり前なのかもしれない。
「エイリアン」はすでに日本語になっており、この映画を初めて見る人でも、ほとんどの人はどんな映画か想像ついてしまうだろうから...
この映画の公開当時は、もちろんそんなことない。
当時中学生だった自分にとって、alienは初めて見る英単語だったから、映画館に行く前に辞書を引いてみた。
1番に「外国人、異邦人」と書いてあり、自分は「異邦人」を取ることにした。
ちょうどその当時、あるテレビCMで「ちょっと、振り向いて、みただけの異邦人~」という、とても印象深い歌が流れていたのをよく覚えていたからだ。
少し後にレコード化されて大ヒットするこの歌は、久保田早紀の「異邦人」。
自分は「ちょっと、振り向いて、みただけのエイリアン~」などと、つまらない替え歌の鼻歌まじりで「宇宙怪獣物」の映画を見に行った。
当時はこういうカテゴリーで呼ばれてた。もしくは「宇宙モンスターのパニック物」。「SFホラー」なんて誰も言ってなかった。
だから、「主人公がカッコよく怪獣をやっつける話だろうな」と思ってたんだけど......
実際に映画見たら、とんでもなかった。
初っ端のタイトルが出るところから、早くも「これはなんかヤバそうだ」と思った。
そして物語が後半になると、恐怖のあまり、何度も「これは映画だ!これは映画だ!」と心の中で叫び続け、それでも耐え切れず、何回か下を向いてスクリーンから目を逸らした。
ようやく終わったあとも震えが止まらず、恐さを紛らわすために、もう1回連続で見た。
当時はこういうことが可能だったから。
2回目は、さすがにスクリーンから目を逸らすことはなかった。
でも、朝、鼻歌交じりで映画館に入った生意気な中学生は、夕方、まだ真っ青な顔で映画館を出た。
映画でこれだけの衝撃を受けたことはなかったし、その後もなかった。
自分が若かったせいもあるし、家のテレビが14インチモノラルの時代に、テアトル東京という巨大スクリーンの映画館で見たせいもある。
でも、一番なのは、映画の内容が凄かったからに決まってる。
自分は、今のトシになっても、「alien」という文字を英文で見かけるとギクっとする。
どうしても、その言葉に「倒すべき敵」という意味が含まれているように思えてしまうのだ。