1.舞台となるフォンタイーニャス地区というスラム街には①昔確かにあったはずの場所と、②今ここにある場所と、③次第に崩壊されつつある場所が明確にある。①は住む人々の記憶(あるいは音?)として、②はドラッグと貧困の果てしない反復として、③は着々と進行する街の破壊として。監督のペドロ・コスタはヴァンダの部屋を中心にカメラを据え、2年間に及んだ記録を3時間に濃縮した。ヴァンダたちにとっての故郷という「場所」が次第に失われていくのと同時に、彼らは鋭くもなぜか柔らかな光の差す暗闇(これが凄い)の中で変な咳をしたり、無数の100円ライターからまだ火の出る物を探す。これらを映し出すスクリーンには①、②、③が同居するという信じられない事態が起こっている。つまりヴァンダの部屋はドキュメンタリー(②)でありながら歴史映画(①)であり、さらにアクション映画?(③)とも言えるだろうか。なんにせよこんな映画を見たことはない。一番驚いたのは、ヴァンダが相変わらずヤクをやりながら咳しているんだけど、その咳がいつもより激しいなーと思ったら、突然ゲロゲロ吐き出したシーン。真の驚きはその次で、ヴァンダはなんとそのゲロを掛け布団で包みながら再びヤクをやるのである、しかも鼻歌歌いながら。こんな映画を見たことはない。