1.《ネタバレ》 昭和特撮ファンの間ではそれなりに知られた映画だが、実際見ればどこが特撮映画かと呆れることは間違いない。
実態としては探偵小説(推理小説)を映画化したもので、1947年に新聞連載されたものが翌年に出版され、さらにその翌年には映画化されたということである。映像には戦後4年目の屋外風景も出ており、駅の場面では「日本通運新宿支店」「八王子支店」という看板が見えて場所が知られる。
当時を知らない人間としては敗戦直後など余裕がなくて大変だったろうと思うわけだが、そういう時期でもこんな小説なり映画が発表されているのを見ると、戦争の勝敗にかかわらず人間は娯楽を欲するものだなという感慨がある。また戦後という時代を受けてのことか、女性の地位の変化ということに微妙に踏み込んだように見えなくもない(特に原作の方)。
なお劇中の博士は虹の研究をしていたとのことだが、それが何の役に立つかについて本人の説明を聞くと、遠い天体からの光をスペクトルに分解することで宇宙の膨張による赤方偏移の観測に使える、ということだったようで、これは結構まともな(普通の)ことを言っている。
ところでこの映画を見るために原作まで読む人間は全国でも多くないだろうが、あえて読んでみるとけっこう原作に忠実に作ったようである。ただし長編小説を1時間半に収めたため、原作でもわかりづらいところがさらに理解困難になった面はあるかも知れない。
また映画では真犯人とラストの展開を大きく変え、ハッピーエンド化したことで娯楽性を高めたようにも思われる。しかし原作では悲劇性を強く出した上で最後だけほんのり泣けるというのが非常によかったので、これが映画では形だけになっているのが残念だった。舞台になった旧家の異常さも印象が薄くなっており(映像化困難な面はあるが)、どうも中途半端な映画になったように見えた。
ちなみに原作の虹男は「赤衣をまとい額のただ中にただ一つの緑眼怪しく光る男」で「火のごとく虹を吐きたり」という伝承になっている。
ところでこれだけ遡ると知っている役者が少ないが、一応の主役である小林桂樹氏に関しては、後年の赤ひげ先生や田所博士とは思えない軽い人物に見える。また旧家の長男役が、後の“おもちゃじいさん”や“金山老人”だというのは昭和特撮ファンの関心事ではなかろうか。
ほか音楽担当が伊福部昭氏のため、今にも怪獣が出そうだが出なかった。