1.《ネタバレ》 深いようで深くない映画。必ずしもまっすぐには進まない物語と復讐の連鎖というテーマはきちんとリンクしているし、美しい撮影に支えられて映画には終始重厚な雰囲気が漂っています。「これは何か賞をやらなければ」と思わせる佇まいはさすがなのですが、肝心の人間ドラマは意外と薄っぺら。第1部「言葉」の主人公である僧侶が、殺人を犯した少女を愛するに至った過程はかなり適当にすっ飛ばされているし、2年間も沈黙の誓いを守り続けてきた彼がついに言葉を発する場面の扱いも軽いものです。僧侶には多くの葛藤があったはずなのに、それらがすべて適当に流されているのはもったいない限り。第3部「写真」の主人公であるヒゲのおっさんは、この手の映画にありがちで面白みのないキャラクターに終始しています。第1部の僧侶とは対照的にこの人の悩みは観客に対して積極的に投げかけられるのですが、「かつて傍観者を決め込んだ結果として殺人に加担してしまったから、今度は積極的に声をあげます」という意見はすごくありがち。鋭い切り口や深い考察を期待するとガッカリさせられます。。。
そして、最大の問題児が第2部「顔」。主人公は不倫妻なのですが、子供を身籠っているにも関わらず旦那に離婚を迫る不倫妻と、「俺の実家があるマケドニアに二人で引っ越そうよ。出発は明日。明日までに返事してくれないなら、あなたとはお別れだ」と凄まじい無茶ぶりをする不倫相手。乗車したタクシーの車内で真っ昼間からおっぱじめようとするなどやりたい放題の二人なのですが、こんな登場人物にどうやって感情移入しろと言うのでしょうか?この二人に振り回される旦那が不憫で仕方ありません。いったん旧ユーゴ以外に舞台を移し、作品のテーマに普遍性を持たせることを目的としたパートだとは思うのですが、消化不良でおかしなことになっている部分が多いのでパート丸々不要であったように思います。。。
マケドニア人監督がユーゴ内戦についての映画を撮ったという点と、当時はまだ珍しかった時間軸の解体という手法を社会派ドラマに持ち込んだという新しさ、これらが本作の高評価につながっているのですが、こうした外部的要因を外した場合、本作は大した映画ではないように感じます。