1.《ネタバレ》 先月たまたま横須賀に行った関係で初めて見た。
序盤からいきなり心中未遂が出るので呆れるが、乗艦後も水兵の男色嗜好とか喧嘩沙汰とか艦内いじめなど、専ら卑俗な話題を扱っている。また自殺者を非国民と罵る民衆など、太平洋戦争ネタの反戦映画を日露戦争の場にまで持ち込んだようで、戦いたがるのは男だけ、というかのような表現もあった。海戦本番になれば敵より味方がやられる場面が中心になり、輝かしい戦果に隠れた部分を露わにする、いわば「裏・日本海大海戦」の風情を出している。東宝の「(表・)日本海大海戦」(1969)と補完関係のようだが、だからいいとは特別思わない。
また軍楽隊員を主人公にしたのは特徴的だが必然性は感じない。一曲終わるまでは切らない方針だったのか、一場面がやたらに長いところがある。決戦前夜にそんな里心のつきそうな曲はやらないだろうとか、海戦の最中にラッパを持ち出すなど荒唐無稽な場面も多い。テーマとしては音楽の持つ力とか、芸術と軍事は相容れない?といったことを表現していたかも知れないが不明瞭であり、結局は見どころ多数を用意して、世相にも媚びた娯楽映画で終わったようだった。こういうのが東映映画なのか。
なお最後は、題名が「海ゆかば」という割に主人公が水漬く屍になるわけでもなく、佐世保に帰ればまた痴話喧嘩が再発すると思われる。次の危機は同年9月の爆沈事故だ。
個別場面に関する苦情として、自殺者が運ばれる時に軍楽隊が演奏していたが、何で軍楽隊がここにいるのか、突然呼ばれた遺族には唐突でわけがわからないのではないか。またここでの2曲目は、どちらかというと主人公の恋人とされる人物に向けた曲ではなかったかと思うが、そうだとすれば死者と遺族に対し非礼であり、またそもそも恋人本人がこの曲を知っていたかどうかも怪しい。観客を泣かせさえすれば登場人物の都合はどうでもいいかのようで、泣けるはずの場面が全く泣けなかった。
以下は少しよかった点
・兵員中心の映画なので艦内の様子が見える。戦闘開始前にこなすべき作業を「軍艦行進曲」の演奏に乗せて紹介していた。
・出撃前の訓示の時に艦が揺れていたようで、艦長が少しよろめいて踏ん張っていたのは芸が細かい。訓示が終始方言風でユーモラスだった。
・艦首の紋章が菊なら味方、そうでないのは敵という対比はわかりやすい。敵は悪の帝国のような紋章がついていた。