1.《ネタバレ》 アフリカのマリ共和国にある世界遺産の町トンブクトゥを舞台にした映画である。撮影は郊外も含めて、現地に比較的近い隣国モーリタニア国内で行われたとのことで、監督はそのモーリタニアの生まれだそうである。
歴史的には2012年からの「マリ北部紛争」で武装集団が現地を支配下に置いた時期のことであり(※図書紹介「アルカイダから古文書を守った図書館員」)、この映画でも武装集団の構成員の出自や信仰の程度、及び支配言語がフランス語だった地域にアラビア語が入り込もうとする様子が見えている。またこの紛争には外来勢力のほか国内遊牧民の集団も関わっていたが、その遊牧民の個々の人を敵視すべきでないとの雰囲気も出ていたかも知れない(主人公一家と運転手)。
宗教の関連では、この映画の立場として信仰それ自体は否定していない(モーリタニア・イスラム共和国政府が協力しているので当然)。姦通での石打ち刑はあったが極端に残酷な場面はなく、主に音楽・サッカーの禁止や服装制限など、自由度の高い社会なら普通に理不尽に思われることを見せている。基本的には原理主義を批判しているのだろうが、ほかに結婚の強制など女性関係の問題が出ているのは西側自由世界へのアピール狙いのようでもある。
前掲書によれば「ここは1000年も前からイスラムの都」であり、「敬虔なイスラムの伝統」と「芸術と科学に彩られた文化」が併存して来た土地だったが、歴史上は「開かれた寛容な時代のあとには不寛容と抑圧」も度々あったとのことだった。この映画の出来事も、そういう歴史の延長上にあることを表現していれば厚みも出ただろうが製作上無理か。
その他雑記として、このあと2013年にはフランスが現地に軍事介入して原状を回復したとのことで、この映画でも最後に正義の軍隊が登場して人々を救うのかと思ったが出なかった。最近はこの周辺へのフランスの関与も弱まってきたようで、2022年にはマリ、2023年には隣国ニジェールから駐留仏軍を引上げ、一方でマリと隣国ブルキナファソではロシア勢力(ワグネル)の浸透を許しているとのことだった。
なお武装集団の車の後部にわざとらしくTOYOTAと大書されていたのは、1980年代の「トヨタ戦争」などでトヨタ車が各種武装勢力に愛用されてきたことの反映と思われる。優れた民生品が軍事転用されることに無策との批判かも知れないが、劇中の武装集団は具体名を出さないのに(旗だけ)トヨタだけ名指しで糾弾しているように見えるのは、何かトヨタに悪意でもあるのかと思った。