8.《ネタバレ》 とにかくもう、悪役となっているマスコミ側が徹底的に憎たらしく描かれていて、いっそ痛快。
「記事なんか少しぐらい出鱈目でも、活字になりさえすれば世間が信用するよ」
「(抗議されたら)誰も読まないようなところに謝罪広告を出せば、それで済む」
と言い放つ姿には、狡賢い悪党としての「大物」感すら窺わせました。
観客側としては、当然そんな彼らが敗訴して、溜飲を下げる展開を期待する訳なのですが、どうも毛色が違う結末。
分かり易い人情譚として纏められており、感動的と言えば感動的なのですが、正直ちょっと不満が残る形でしたね。
三船敏郎演じる原告側からすると「被告による買収が発覚して勝てた」という訳なのだから、どうも相手側の一方的な自滅というか、勝利のカタルシスに乏しくて、法廷物としては如何なものかと思われます。
志村喬演じる弁護士が、最後の最後で正義を貫く事になるキッカケが「愛娘の死」という点に関しても、申し訳ないのですが娘が登場した瞬間に(あっ、この子死んじゃうな……)と覚らせるものがあったせいで、どうにも予定調和な印象が拭えず、残念でした。
長所としては「横暴なマスコミに対し、決して泣き寝入りはしない毅然とした態度」を描いている事。
そして山口淑子演じる声楽家の「尊敬のない人気なんか沢山だわ」と言い放つ姿から、誇り高く生きる人間の美しさを感じられた事でしょうか。
新進気鋭の若き画家という、他の作品ではあまり見かけない役柄を演じている三船敏郎の姿にも、流石と思わせるものがあり、それだけでも観る価値がありましたね。
独特の渋い声音で
「僕達は生まれて初めて、星が生まれるところを見たんだ」
「その感激に比べれば勝利の感激なんて、ケチくさくて問題にならん」
と言われてしまえば、そういうものかと納得しかけてしまうのだから、全く不思議なものです。