5.《ネタバレ》 初登場となったロジャームーアボンドの印象は、非常に余裕たっぷりという感じだ。
ちょっと困難にぶちあたったとしても、やや怪訝そうな表情を浮かべるものの、なんなく困難を回避してしまう。その辺りが彼の魅力にも感じ、コメディタッチの仕上がりにもなっている。また、裏切り者と分かったロージーが「(ヤッタ後に)自分を殺せるわけない」とボンドに言ったことに対して、「ヤッタ後だから(殺すのに)未練がないんだ」と言い放つところには彼の冷酷さも窺える。ソリテールに対しても愛情というよりも、自分の行動を読まれてはたまらないという考えから自分の魅力を使って寝返らせようとしているようにも感じられる。
一方、ソリテールに危機が迫った際には、何度か躊躇した後、せっかくの計画を無視しても助け出そうとする熱い部分もみせている。余裕たっぷりの紳士の中に垣間見える冷酷さと優しさと熱さが彼の魅力のようだ。
また、本作は、初期の代表作(特に「ロシアから愛をこめて」)の影響が強いようにも感じられる。敵側からは「ロシア」のように複数のユニークな個性的キャラクターが登場し、ボンドガールのソリテールはどことなく「ロシア」のタチアナに雰囲気が似ている。
モーターボートを使った逃走劇に加えて、ラストの列車内のティーヒーとのバトルは、グラントとのバトルを思い出させる。
往年の国際色豊かな雰囲気を醸し出しているのも歓迎すべき点だ。今回のメインの舞台は、アメリカのニューオリンズとカリブ海となっており、カリブ海を舞台とした「ドクターノウ」にも近い雰囲気となっている。ボンドの上陸を手伝ったクオレルジュニアは、「ドクターノウ」で火炎放射龍に焼き殺されたクオレルの子どもだろうか。
さらに、モーターボートを使った派手な逃走劇や、本物のワニを使うといった工夫が随所にされており評価したいところだ。その上にユーモアたっぷりのコメディ要素をふんだんに盛り込んでいるのも特徴だろう。ペッパー保安官や、ジャズ葬、回転したり降下したりする座席、圧縮ガスの弾薬を使ったカナンガのラストといったように、ややユーモアに比重を置きすぎてしまったようにも感じるが、観客を楽しませる工夫が様々に施されている。
この頃になると、セックスとバイオレンスを描く男の世界という尖がった部分よりも、家族で楽しめるファミリー向けの映画へとシフトしていっているのかもしれない。