1.《ネタバレ》 『ニンゲン合格』同様に、生きることの根源としてある自己の存在価値についての葛藤が描かれているのだと思う。女はカーテンで隠された郵便窓口で働く。外部との接触を阻まれた世界で外部との接触を切望しているふうでもある。彼女の地図に日本は存在しない。自分が今いる場所において自らの存在を確立できずにいる。男は対人関係のわずらわしさから逃れるためにあえて自ら存在を希薄にしてゆく。この世界に存在すること自体に苛立ちを持ちはじめる。そして本当に体が透き通ってゆくのだ。恋人たちが公園で遊ぶ。男と女のあいだをボールが行き来する。ボールを通してそれぞれの存在を確認することで女は喜び男は苛立つ。そういった構図はなんとなく理解できるのだが、なんとなく意味ありげなシーンに埋め尽くされた映画は大きな展開があるのかないのかすらよく分からないままに淡々と静かに過ぎ去ってゆく。ちょっと厄介な映画。これもまたずいぶん前に観たものだが、再見の意欲が湧かずにいる。観たら観たで何か発見できるかもしれないのだが。ラストは唯一大きな展開を見せてくれるので安堵と混同した感動がある。郵便窓口の境界線を突き破って女は自らの位置(存在)を確立する。男は存在を消してしまったにもかかわらず存在を消した状態ごと女が受け入れたために存在を消した男として存在するという存在証明を手にする。書くとややこしいな。まあ、どうとでもとれる映画でもある。