1.《ネタバレ》 成瀬巳喜男作品群の中でも、初期に属するもので、それ以後の成瀬の作風とは異なる面を見せてくれる。
喜劇をベースにしながらも、喜怒哀楽を無声劇で見せるところなんぞ、小津安二郎の初期の頃にそっくりである。
特に秀逸なのは、後半の父親と息子のやりとりのシーンだ。
父親は家族の幸せを願い、収入を得る為、息子に対し、金持ちの子供たちに謝れと言う。
しかし、息子は悪くない。
当然、息子は謝りたくないと主張する。
「悪くもないのに、お金のために謝る」。
これはすなわち“大人社会”の縮図であって、それが子供には理解できようがない。
それが原因となって、父親と息子の間で衝突が起きてしまう。
その後、息子が瀕死の重傷に遭い、父親は居ても立ってもいられない気持ちになる。
父親の、親として息子を大切に思う気持ちが、短い尺の中で実に深く、そして緻密に描かれている。
貧乏であるが故のやるせなさ、悔しさみたいなものが、ぎゅっと凝縮された掌編だ。