1.《ネタバレ》 うだつの上がらない万年平社員の主人公とその妻子との日常を描いた野村芳太郎監督の喜劇映画。こう書くと何やら家庭に起きる騒動を描くほのぼのした映画なのかと思ってしまいそうだが、出世欲のないダメおやじである主人公(三波伸介)に対して妻(倍賞美津子)と小学生の息子が今でいうDVをするという展開である。原作の漫画がそういう内容らしいのだが、70年代の日本映画においてこういうのは珍しいと思うし、実際に男より女のほうが強くなった感のある現代になって見るとかなり先見の明がある映画のように思う。三波伸介扮するダメおやじに対してDVを振るう倍賞美津子の演技がすごく、朝ドラ「梅ちゃん先生」でいつも見てるせいか役柄のギャップに少々驚いた。(元々、ヒステリックな役のイメージがないというのもあるのだが。あと、ついでに言えば若い頃と今とではかなり見た目の印象が違うように思う。)三波伸介の主演映画というのも初めて見たが、お笑いの人だけあって喜劇俳優としての魅力もじゅうぶんあり、ふくよかな体型も相まって愛嬌があり、見ていてなんだかかわいらしく見える。少し過激な映画かもしれないが、「男はつらいよ」シリーズの同時上映作として劇場で流してもいいような感じの映画で、この後何本かシリーズ化してもよかったかも知れない。ただ、係長への昇進試験を妻に強要され、妻子にあれこれ言われながら試験勉強をした挙句ノイローゼになるという後半のエピソードは喜劇として見るには話が少し深刻すぎて笑えないのだが。伊東四朗が最後のほうにチョイ役で出ているが、この頃既に戸塚睦夫は鬼籍に入っていて、てんぷくトリオは二人になっていたんだなあ。