7.《ネタバレ》 “Emperor”『天皇』。シンプルなタイトルです。王様である“King”より上の位で、皇帝や帝王もエンペラーという称号ですが、現存するエンペラーは日本の天皇陛下だけだそうです。それって素直に凄いことだと思います、はい。
終戦直後の焼け野原の日本が舞台。天皇を処刑しようか、生かそうかって連合国の結論を出すことを任されたマッカーサー。その為にたった10日で調査を依頼されるフェラーズ。戦争に引き裂かれた恋人アヤの現在を調査依頼された高橋。…これ、アメリカ人が観て面白いのかなぁ?
日本人の書いた原作があっての映画化だけど、日本人が終戦のイメージとして脳裏に焼き付いている原爆。テロップは8月6日の広島なのに、映像は長崎に落とされたファットマンのチグハグさ。こういう記録映像ってちょっと調べれば間違いに気がつくだろうに、そんなにコダワリは感じられない。
またフェラーズの実情、活躍は映画とは少し違うようで、この辺りも当時どこまで解っていたか定かではないけど、何かこう、フェラーズの人物描写の薄っぺらさに繋がってしまう。
原作には無いというフェラーズとアヤのラブストーリー回顧録。そもそも10日で天皇の生き死にが掛かる中、マッカーサーが任された日本再生のスタート地点がどこになるのかが掛かっている中、近々に命の危機が迫っているでもないアヤの消息調査は、今やるべきことではないでしょう。
歴史物の割に本作は107分と短い。広島と長崎の原爆も、フェラーズとアヤの恋愛も、この映画の主題である“どうして天皇を生かすことにしたのか?”には関係がない。
見どころはやはり天皇とマッカーサーの会談。あの有名な写真が撮られた時、あの部屋で何が話されていたのか?に絞られてしまう。あの場面を観るための映画なんでしょう。それにしては短く感じたけど。マッカーサーに苦手な葉巻を勧められて、我慢して吸う陛下は入れても良かったかと思います。
アメリカ人が観ても面白いとは思えないこの映画、何故2012年に公開されたのか?
世界に衝撃を与えた東日本大震災。その僅か一月半後に自ら被災地に駆け付け、膝を折って被災者を直接見舞う、当時の天皇陛下の映像を見て、終戦時の昭和天皇と重なるものを感じたのかもしれません。
戦後から、震災から、どん底から再生してきた日本と日本人。“Emperor”の響きからは到底想像できない天皇陛下の行動。この映画は“戦争責任”を題材にした映画ではなく“日本人の精神”を理解しようとした映画なんですね。