1.他人より若干色白ということ以外に吸血鬼らしい特徴はなく、十字架も日光も平気で、カトリックの教会にまで出入りするマーティン。時折挿入される20世紀中頃と思われる回想も、彼が実際に経験したことなのか、それともただの夢なのかが判然とせず、マーティンは本当に吸血鬼なのか、それとも自分を吸血鬼だと思い込んでいる普通の人間なのかが意図的にぼやかされています。観客に解釈の余地を残した作りはいかにも70年代っぽくて、私は嫌いではありません。また、吸血鬼と言えば性的なアイコンでもあり、本作にもちょいちょいヌードが出てくるのですが、どの場面も艶かしく撮られていることには感心しました。ロメロはゾンビ親父としての印象しかありませんでしたが、監督としての引き出しは意外と多いようです。
こうして部分評価可能な点が少なからずある反面、作品全体としてはとっ散らかっていて、良作にはなりきれていません。例えば、マーティンとクーダの関係。クーダはマーティンを心の底から忌み嫌っているし、マーティンもクーダの頑固さには手を焼いているのですが、そんな二人が共同生活をするに至った経緯がまったく描かれていないため、ドラマの通りが悪くなっています。二人の間には捻れた依存関係があると思うのですが(信仰心の強いクーダは、神の存在証明の裏返しとして悪しき者を求め、内向的なマーティンは、吸血鬼という自分のアイデンティティを額面通りに受け取ってくれる人を求めていた)、そうしたものがまったく描かれていない点が残念でした。また、マーティンを「なまけもの!」と言って責め立てるババァの存在なども単発エピソードで終わってしまっていて、その意義を感じられるまで深掘りされていません。他方、マーティンがラジオの人生相談の常連になるものの、いたって真剣な本人の意図とは裏腹に「伯爵様」と呼ばれてネタキャラ扱いされてしまう件は、作品全体から見て明らかに不要です。
ファーストカットでは2時間45分もあったのですが、無名監督と無名キャストで内容も地味とあってはヒットが見込めないと、完成後2年もオクラ入りした後、世に出たバージョンは95分にまで縮められたと言います。その過程で重要なシーンの多くがカットされたようです。全体としては決して甘い作りではないだけに、まだロメロが元気なうちに完全版がリリースされることを望みます。