1.《ネタバレ》 『デビルマン』や『北斗の拳』を引き合いに出すまでもなく、ファンタジー漫画やアニメの実写化が難しいのは衆知の事実です。爆死必至の禁断のジャンルにあって、TVドラマ版『岸部露伴は動かない』は稀有な成功例のひとつと言えましょう。成功の要因は、ひとえに実写作品に必要な「リアリティ」を担保した事と考えます。奇しくも岸部露伴が好きな言葉。パッケージの再現に気を取られることなく「作品の本質=魅力の源泉」に注目した制作姿勢が功を奏しました。一度かみ砕いてからエッセンス・旨味成分を抽出し現実にフィットさせる手法は、原作、いや荒木飛呂彦ワールドに対する深い理解と敬意が成せる業でありました。本作はそんなTVドラマ版のキャスト・スタッフが再集結した映画だそう。TVドラマ版のファンであれば違和感なく楽しめる作品であったと感じます。
以下ネタバレを含みます。ご注意ください。気になった点を2か所ほど記載します(ちなみにジョジョは6部までコミックを所有、岸部露伴シリーズは本作を含め未読多数)。まずキーパーソン「奈々瀬」について。彼女の正体は絵師・山村仁左衛門の妻でありました。つまり青年露伴が出会ったのも、ルーブルで助けてくれたのも幽霊ということ。ここで疑問。何故彼女は和服ではないのでしょう。理由の一つは観客に死者であることを悟らせないため。いわゆるミスリードです。だとすればアンフェアな表現では。いえ、これはセーフ。露伴が見たのは「奈々瀬」の魂。有形ではありません。露伴の固定観念や先入観、あるいは理想等が反映されていたとしても不思議ではありません。もっともこれは考察から辿り着く仮説であり、和服であればより納得感はあったと思いますが。次に物語の構成について。サスペンスとしてはルーブル地下決戦で終了しています。そこにエピローグ「実はこんな裏話がありました」が20分。重要な種明かしであり蛇足ではないものの、流石に長い。ジョジョ5部の最終エピソードもこんな感じでしたし原作どおりかもしれませんが、仁左衛門との戦いの中に組み込んだ方がすっきりした気がします。いや、それだと間延びしてしまうのかな。巨人の星と比べれば可愛いものだという気もしますけども。
相変わらず高橋一生さんの露伴は素晴らしい。キャラクターを自分のモノにしています。だからコスプレ感がありません。飯豊まりえさん映じる泉京香も実に愛らしい。黒い絵の呪いにかからないのは鈍感なのか、あるいは無垢なる魂ゆえでしょうか。2人のコンビネーションは鉄板の面白さでした。映画でもTVでも構いませんが続編を強く希望します。