1.《ネタバレ》 戦後のすぐのころの日本の「公式な名作」って、ちょっと民主主義啓蒙臭が強く、それはそれで時代の高揚感の記録にもなっているのだが、やや固い。そこいくとベストテンに入ってないような映画は自然体というか、『東京五人男』とか『銀座カンカン娘』とか、作品自体で自由な時代の喜びを歌ってて、捨て難い。本作なんか、民主主義啓蒙とは関係なく、教訓を得ようとするなら「得体の知れない肉を食べるときは必ず火を通そう」ってぐらいで、この年の吉村の代表作としては『安城家の舞踏会』を押す方が正しいとは思うけど、こっちの肩に力が入ってない感じも好きなんだなあ。日守新一がズルッと鼻水を垂らして一同が緊張するとこ、原保美が田舎に帰って母親とモーツァルトの子守歌をデュエットするとこなんか、かなり当時として新しい笑いの取り方だっただろう。安部徹が奥さんと気を紛らそうと観に行った劇場で踊り子の歌が象にかわるとこ、神田隆のピクニックの最中「象なんか食べるのは大馬鹿ですよ」と奥さんに言われたり。当時一番喜ばれたのはこの軽い笑いなんじゃないか。人々は民主主義の旗を振り回されるより、この軽くなった自在感を楽しみたかったんじゃないか。そして後世の者にとっては、みなが「得体の知れない肉」を食べていた時代の空気を体感できる。