2.《ネタバレ》 こういうドキュメンタリー映画にありがちな一面的な描写が鼻を衝く部分もあるが、印象的なキーワードを配して、全体としてはうまくまとまっている。エンロンという化け物企業が誕生して没落するまでが実に面白くて観ていて飽きない。怪物的な創業者であるケン・レイや異様なまでに精力的なCEOジェフ・スキリングなど役者が揃っている。実際、下手な役者を観ているより面白い。
だが、この映画から学べたことはあまり多くなかったような気がする。つまり「身の丈に合わないことはやらない」とか「法律を守ろう」とかその程度で、「んなこと言われなくても分かってるよ!」と言いたくなる。興味深いのは、なぜ才能と知力に溢れた大企業のお偉いさんたちがこんなことをやってしまったのか?ということなのだ。その原因について、この映画が出している答えは彼らの「強欲さ」(greediness)だが、本当にそれだけなのだろうか?僅か十数年でエンロンを巨大企業に成長させた男たちがそれだけで動いていたとは考えにくい。確かに最後に自社株を売り抜けたのはかっこ悪いが、彼らには彼らなりのビジョンがあったのだろうし、そこを批判的にだけ見るのではなく、もっと分かり易く丁寧に映してほしかった。意外と勉強になるかもしれないし。
翻って、一般的な日本の企業に足りないのは、この攻撃性ではないかと思う。日本の企業風土として仕方が無いのかもしれないが、石橋を叩いて叩いて叩き壊すような動きの鈍い企業と比べれば、このエンロンの身軽さは羨ましい。凄まじいまでに実力主義でトップダウンのこの会社はさながら翼の生えた獅子だ。ちょっと道を誤ると奈落の底だが、なかなかスリリング。こんな会社に入っても面白いかも。映画の意図とは裏腹にそんなことを感じた。