1.『列車の到着』においては、画面左手前に向かって進入してくる列車と、右手前に向かって歩いてくる乗客たち。
『リュミエール工場の出口』においては、画面奥から左右両方向へと拡散してくる登場人物、犬、自転車。
そして『壁の破壊』では、画面右手に倒れる壁と、主に画面左前方に白く舞い上がる土煙。
ルイ・リュミエールはここでも、画面奥から手前に向かっての「放射状の運動」を演出する。
豪快な土埃のスペクタクルを観客に体感させる為に風圧の方向性までを的確に想定し、あえて埃を被る位置を選びとった、厳密な構図といえるだろう。
塀が倒れることで背後にあった光景が現れ、画面にはさらに深度が導入されることにもなる。
画面を「意味」として単に読み取っていくばかりの、あるいは3Dグラスという外部ツールに拠らねば奥行きを感知できない現代の大多数の観客にとっては「ただ」壁を壊す「だけ」という事象の意味でしかない1分弱のワンショット。
それを具体の画面としてひたすら図像的に捉える感性を持ちえたときに初めて、倒れる分厚い塀の質感や吹き上がる土煙の風圧やツルハシの槌音といった豊かなディティールを、時代を超えて触覚的に感知することが出来る。
生き生きとした人間の姿とアクションを映し出したリュミエールの作品は、「映画を観る」ことの原初的な快楽を改めて教えてくれる。