1.《ネタバレ》 劇中の小学校で、プールの向こうに錦江湾が広がり、さらに向こうの陸地(薩摩半島)の上に雲が立つ風景は雄大である。この小学校は実際にこういう立地だったようで羨ましい。遠方には喜入の原油備蓄基地や鹿児島市街地の南部も見えていたようである。
こういった個別の撮影地は別にして、映画の設定上は鹿児島市が舞台ということで、桜島も時々映るほか市内の名所も出ていた(ドルフィンポートにはたまたま公開同年に行ってきた)。遠泳大会の際に、どこからどこまで泳いだのか見てよくわからないのは少々つらいものがあったが、終わってみればどうやら桜島の方が出発地らしかった(実際は桜島小池町から磯海水浴場まで)。
内容としては、まず導入部の展開がけっこう可笑しい。個人的にこういう失笑ネタは嫌いでない。
テーマ的には児童の成長物語ということだろうが、特に転校生に関しては結構深刻なお話になっている。死んだ父親が息子を「太か男」にしたかったのか、それとも家族を捨てた勝手な男なのか、あるいは海に引きずり込もうとする怨霊なのかがわからなくなってしまったようだが、結局は主人公とその父親の全く違う助言を両方取り入れて、否定するものは否定した上で主体的に選び取ったということらしい。
また下痢気味の少年は極めて格好悪い存在だったが、実際は両親、特に父親の存在でかなり救われている。本人も成績は悪くないのだろうし、この辺は一面的なものの見方をひっくり返して相対化しようという意図かも知れない。
一方で主人公から好きな女子へのアドバイスは名言だった。表面上の理屈はつながらないにしても、自分の存在価値を認識し自信を取り戻すための方策とすればなるほどと思われる。主人公はこれを先輩に聞いたと言っていたが、示現流の道場(正確には、劇中に出るのは「野太刀自顕流」)でこういう知恵が伝わって来たということか。
それぞれに違う事情を抱えた子どもらに若手の教員も含めて、みな悩みながらも前に進んでいこうとするお話は悪くなかった。というか、少々の未消化部分はあるようだがいい映画だった。原作付きのため基本がしっかりしているということか。
なお主人公の父親は、こういうキャラクターが地元では普通というわけでもないだろうが、言っていることがよくわからないというのは地元住民らしい雰囲気を出している。もしかして転校生の母親は初恋の人だったのか。