1.《ネタバレ》 「私の名前はエリア・カザン、血はギリシャ生まれはトルコ、伯父の移住でアメリカ人になった」というカザン本人のナレーションで始まります。原作は自身が執筆した長編小説、紆余曲折がありながらもここまでキャリアを重ねてきたところでの自分のルーツ探索をテーマにする、どの分野の人でも頂点から坂を降りだしたときに見られるパターンですが、カザンもこの罠から逃れられず、本作が米国で映画賞をもらった最後の作品となりました。 主人公の若き日の伯父が移民として合衆国に上陸するまでの紆余曲折・波乱万丈のストーリーですが、とにかく長いお話なので気持ちの準備が必要です。主人公がトルコの内陸部の故郷から首都イスタンブールにたどり着くまででも、たっぷり40分はかかるんですからね。この旅はお人好しの田舎青年が狡猾なトルコ人無頼漢に身ぐるみはがされ無一文にされてしまうわけですが、けっきょくこの無頼漢を殺してしまうという大罪を犯してしまいます。治安が乱れ切っていたオスマン帝国ですから、その後に警察が捜査している様子はないのですが、彼の「何がなんでもアメリカに行きたい」という執念を支えるのにこの罪の意識が影響を与えていることは間違いないでしょう。港の荷役労働で旅費を貯めようとしてもうまくゆかずテロリスト・グループに間違われて銃撃されて重傷を負う、もう悲惨の極みです。イケメンなところを見込まれて金持ちの絨毯商人の娘の婿になる幸運をつかみますが、ここからがいけません。嫁は器量の方は並ですが気立てが良いし義父も実の息子のようにかわいがるのですが、それでも青年は婚約破棄してでも単身で渡米しようとします。ここが見る人には最大の?で、確実な幸せを放棄してまでしてなんでこの青年が渡米に執念を燃やすのかが理解できないと思います。殺人の罪の負い目があったのかもしれませんが、とても普遍性がある行動とは思えませんし、この映画の最大の欠点とも言えるでしょう。それでも多民族国家で被支配民族が味あわされる悲哀はひしひしと伝わってきます、これは日本人には決して実感できないことでしょう。 オスマン帝国のギリシャ人は第一次大戦後の混乱期に虐殺されたりして大変な目に遭いますので、結果的にはカザンの伯父の選択は正解だったことになります。