2.《ネタバレ》 導入部の大胆な省略と、蛇を捕獲する木村多恵のインパクトあるショットで一気にドラマに引き込む語りの妙は原作の出だしにも負けていない。
現代風刺や寓意性を殊更に強調しない節度も原作の精神の尊重だろう。
したたかと脆弱、善良と狡猾と、ヒロインのみならず個々のキャラクターも多面的かつ複雑な諸相を見せる点に、人間描写へのこだわりの意思が伺える。
キャストとは対照的に原作を始めとする主要スタッフには女性が多く、特に出産シーン以降は反逆光を活かして力強さと繊細さと色彩美を湛えた芹澤明子の撮影が印象的だ。
サヘル・ローズと木村が洗濯する水辺のシーンにおける水面の光の照り返し。
岩場の影で、生まれた赤子を懐に抱く二人のショットの自然な光。
後日談での、東京の夜景を背景にした食卓のキャンドルの暖かな灯りなどは格別に美しい。
窪塚洋介が背負う亀の甲羅のユーモアが秀逸で、10年後のエピローグにもさりげなく登場することで物語に映画オリジナルの膨らみをもたらしている。