2.《ネタバレ》 アラブ系の青年がギャングのボスとして頭角を現すさまを、預言者ムハンマド誕生になぞらえて描いた本作。
カンヌが好む社会派要素はあれど娯楽作品としても両立している。
自身のアイデンティティーに背いてコルシカ系マフィアに組み込まれざるを得ない主人公は、
処世術を学び、情けない青年からしたたかな男になっていく。
その主演の演技が見事。
同胞のイスラム教信者の礼拝、飛行機の搭乗シーンといった目の前の世界が広がっていく演出が印象に残る。
ただ、結局は刑務所に入れられても更生せずに図太い犯罪者にランクアップするだけ。
純フランス人が登場しないのも今のフランス社会そのものの歪みを映し出しているよう。
己のアイデンティティーと居場所……そこに一つの答えもないから、
グローバルなのに閉塞感のある矛盾が刑務所に集約されている。