3.《ネタバレ》 導入部の短い時間の中で、主人公に感情移入させるのが巧いなぁ、と感心。
「幽霊が見えて、話す事が出来る」という能力の持ち主が、周囲からは如何に奇怪な存在に思えるか、という点をテンポ良く説明してみせる親切さが心地良いんですよね。
学校でのイジメも陰鬱になり過ぎない範囲で、同情を誘うように描かれており、この後に彼が周囲に理解され、立場が改善される展開になる事を願わされます。
他にも、変人のように描かれていたお婆ちゃんが「実は幽霊である」という最初の種明かしの時点で、これは自分好みの映画だと直感的に覚る事が出来ましたね。
主人公を見守るお婆ちゃんの霊というと、性格的にも分かり易く優しかったり、あるいは窮地を救ってくれる助っ人的なポジションだったりするのを予想するところなのですが、この映画では本当に孫を見守っているだけで、出番すらも僅かで、直接的に役立ってはくれないんです。
それを作劇として不誠実と感じる向きもあるでしょうが、自分としては何となく、その「すっとぼけ」具合が好ましく思えました。
一番面白かったのは、中盤のゾンビが町を訪れるシークエンス。
目の前にゾンビが迫ってきているのに、自販機で買ったお菓子が出てくるまでは逃げ出す事が出来ずにいる市民の姿なんかが、妙にツボでした。
ただゾンビ映画のテンプレをクレイアニメでなぞるだけでなく、こういった独自のユーモア感覚が全編に散りばめられているから楽しい。
格好良くショットガンを取り出して「頭を吹っ飛ばせーっ!」と叫ぶ金髪のオバちゃんの姿なんかには、こちらのテンションも大いに高まりました。
「ゾンビよりも人間の方が怖い」というのは、これまでにも何度か描かれてきたテーマではありますが、この作品くらいハイテンションに、かつギャグの色も濃密に描いたパターンというのは、初めての体験でしたね。
ゾンビが人間を襲うのではなく、人間がゾンビを襲っているというアベコベな風景を、途中までは笑って観ていられたのに、段々と「魔女狩り」の色合いを帯びてくる集団の姿に、ゾッとさせられるという二段仕掛けの構成も秀逸。
狂気とは笑いにも恐怖にも通じるものなのだなぁ、と実感させられました。
一方で、終盤の展開に関しては少し不満というか、期待していたのとは違う方向性に話が進んだように思えて、残念な気持ちに。
まず、一度は弟を見捨てたはずの主人公の姉が味方になってくれる展開が、どうにも唐突に感じられてしまった事。
そして騒動の根源となっている魔女との対決が、似通った境遇の少年と少女の対話によって解決されるという展開に「えっ? そんな道徳的な話になるの?」と戸惑ってしまった事が大きいですね。
後になって思い出せば、冒頭のお婆ちゃんの台詞「ちゃんと落ち着いて話し合えば、違う結末になる」が伏線になっていたのだと分かるのですが、観ている最中は?マークに頭を占められてしまいました。
個人的好みとしては、中盤までの悪ノリとブラックユーモアに溢れた世界観で突っ走って欲しかったという思いがあるのですが、終盤の感動的なシークエンスによって、この映画に「誰でも安心して楽しめるような優等生的作品」という長所が生まれたのも確かですね。
主人公の友達となってくれるニールや、その兄など、脇を固めるキャラクター陣も魅力的。
ラストシーンの、それまで頑なに息子を否定していた父親が、ようやく幽霊の存在を受け入れて亡き母に語り掛けてくれるという、静かなカタルシスを与えてくれる終わり方も良かったです。
一家揃って仲良くホラー映画を観る姿には、憧れを感じさせるものがありました。