1.《ネタバレ》 印象的な点は、窓の外の風景が雑なはめ込み合成映像であることだ。勝手にはめ込んでいるから、気に入った風景を難なく収めることができる。つまりあの背景には、監督からの強烈なメッセージが込められているに違いない。
そしてこの映画を完成させたことにもっとも貢献したのは、他ならぬ、出演者たちの演技だ。主演の窪塚のあのシワッシワの笑顔とわざとらしさをあえて感じさせる自然なせりふ回し、長塚圭史演じる高校生のあのアンニュイなかんじ、常盤貴子演じる未亡人の妖艶さ、その他チョイ役の人々も全員に濃い味わいがあり、毒がある。(裸で二人で馬に乗って浜辺を駆け抜けるあのシーンは拍手ものだ)
「唐津くんち」というお祭りが映画後半現れる。なんとも妖しげでけだるいお祭りだが、大林監督はあの夜行と戦争への出兵を重ね合わせた。重ね合わせるとはまさにそのまま、映像を合成して重ねた。CG技術が発達しまくっている現在において、遠近感とかテクスチャのずれとかお構いなく、あんなに雑に合成してスクリーンに叩きつける度胸というかセンスが大林監督ならでは。
唐津くんちと戦争を重ねることで、戦争の風景が妖しく縁どられている。それがとてもグロテスクだった。耽美的ともいえる。
映画ラストは、窪塚が本人として(背景には大林の監督イスが見切れている)我々に問いかける。「飛ぶか、飛ばぬか」みたいなことを。どういうことかというと、彼は崖から身を投げるかどうか、映画歩島で躊躇し止めている。しかし彼の周りの人達は、身を投げた。ではこの映画を観ているおまえはどうなんだ!?っていうことだと思う。
身を投げるイコール死だろうけど、大林は我々に「死ぬか、死なぬか」を問いただしているのだ。もちろん生きますけども。そして主演の彼もまた飛ばなかった。
映画が終わってロビーを出たら、有楽町はすっかり日が暮れていた。今、この街でしか見ることが出来ないこの映画を、こうしてみることが出来て、まあなんというか、貴重な経験だなと思った。