1.《ネタバレ》 何処にでもいるような10歳の大人しい少年、オリオン。地味で目立たず、内気な性格の彼はクラスでも少し浮いた存在だ。そんなオリオンの性格を一言で表すと、「とっても怖がり」。彼の見えている世界には、恐ろしいことがいっぱい。ハチに刺されたらどうしよう、犬に嚙まれたら痛いし、携帯電話はガンになるし、道端の排水溝には殺人ピエロが潜んでるし、トイレで水が詰まったら大洪水になってみんな死んでしまう。そんな怖いものだらけのオリオンがもっとも恐れているのが、〝暗闇〟。日が暮れてベッドに潜り込むと毎晩、何が隠れているか分からない真っ暗な世界がオリオンを取り囲むのだ。それでもベッドの中で恐怖に耐えながら眠りに就いたオリオンにある夜、彼がやってくるのだった。何千年ものあいだ、人々に忌み嫌われてきた〝暗闇〟が――。不安神経症に悩む少年がある夜出会った暗闇、彼とともに体験する不思議な一夜をファンタジックに描いたCGアニメーション。脚本はかつて、『エターナル・サンシャイン』などで天才の名をほしいままにした脚本家チャーリー・カウフマン。絵本を基にしたということもあって、ビジュアルやお話は物凄くベタベタな子供向けアニメなのに、そこはやはりカウフマン、一筋縄ではいかない内容に仕上がっておりました。とにかくテーマがすこぶる哲学的!人間が闇を恐れる理由、それは死が無であるということを否応なく見せつけてくるから。でもそれは思い込みだと教えるために擬人化された暗闇と、彼の仲間である「眠れず」「静寂」「睡眠」「不思議な雑音」「いい夢」とともに冒険の旅に出る。その過程でなぜ人が暗闇を恐れるのか、それはそこに何もないという事実が根源的な恐怖を与えてくるからということを掘り下げてゆく。なんとも実存主義的で多くの哲学者がずっと考えても答えがでないテーマをここまで分かりやすく子供向けに描いたところは特筆に値します。さすが!また、暗闇の仲間たちがどれも良い感じでキャラ立ちしているのもナイス!特にハンマーで殴ったり枕で窒息させたりして人々を眠りに落ちさせる睡眠と、可愛い見た目なのになにかと怒りっぽい静寂が僕のお気に入り。お話の方も、途中から大人になったオリオンが娘に話してきかせていたというメタフィクション構造が明らかになるのだけど、途中からその娘が子供オリオンの世界に入ってきたり、彼女を救うために今度はお爺ちゃんオリオンの世界から孫がタイムマシンでやってきたりとかなり複雑怪奇。それなのにここまで分かりやすく、かつシュールで笑える世界観で表わしちゃうなんて凄いと思う。最後、暗闇を救うために主人公が自らの記憶の中に飛び込むシーンは、観念的世界を独創的な映像で描いた唯一無二のもの。名作『エターナル・サンシャイン』をも髣髴させるその映像に自分はハート鷲掴みでした。いかに恐怖を克服して生きることが大切かを問うた秀作だと自分は思う。