2.《ネタバレ》 大人だからこそ、若さがあるからこそ、大きな困難を乗り越えられると思っていた。
だが、いくら大金を得られてもヒエラルキーからは逃れられない。
そして強大な権力によってどうしようもない厳しい現実に打ちのめされる。
NYのストリッパーで時折性的なサービスも請け負っていたアノーラが求めていたのはお金だったのか、
それとも自分自身を受け入れてくれる代わりの利かない愛情だったのか。
最初で最後かもしれないチャンスに彼女は必死にしがみつく、必死に抵抗する。
大富豪の部下たちの脅しには汚い言葉で打ち負かし暴れまくる。
決して折れまいと毅然とした態度で立ち向かうマイキー・マディソンのパフォーマンスに圧倒された。
ポールダンスからロシア語まで完璧にこなし、アノーラというキャラクターに現実味を与える。
本作では愚かな人間しか登場しない。
勢いでアノーラと結婚した大富豪の息子のイヴァンですら、彼女を置いて逃走して、NYのクラブで泥酔しまくるし、
自分という核がなく流されるがままの幼稚で無責任な青年。
両親を見ても「この親にして、この子あり」な横柄さでロシアという国家そのもの。
その中で寡黙な用心棒のイゴールだけはアノーラに対して距離を置きながらも、彼女を気遣い、見守っていた。
婚約解消のシーンで部外者ながらイヴァンを謝罪させるべきだと進言したのも彼だった。
ある意味、彼だけはファンタジーの住人だ。
当たり役を好演したユーリー・ボリソフに肩入れしたくなる。
夢から醒めたように現実に叩き戻されるラスト。
朝から白い雪が降り続く灰色の世界に、車のエンジン音とワイパー音だけが響いている。
自分に良くしてくれたイゴールへの厚意を性行為でしか示せない悲しさに今まで張り詰めていた糸が切れ、
アノーラは"一人の女の子"として泣き崩れる。
イゴールもやんわり拒否しながらも無言で、
「もうこれ以上、自分を傷つけなくていいんだ、頑張ったよ」と彼女を慰めているように見えた。
アノーラのこれからの物語はどうなるのだろうか?
きっと、二人は恋人同士になれなくても、お互いに信頼し合える存在として支え合いながら強く生きていくと思う。
なんたってアノーラはロシア語で"光"を意味するのだから。