2.《ネタバレ》 山田洋次がフーテンの寅のキャラを思いつくきっかけとなったムッシュ・ユロ=ジャック・タチがスクリーン初登場となった作品。でもユロ氏は挙動不審だけど礼儀正しいし根っからのジェントルマンで、テキ屋の車寅次郎とは大違いなのが面白い。どちらかと言うと、自分にはユロ氏のあの長身の容姿からはシャルル・ドゴールのカリカチュアだったような気もします。 フランス人と言えばバカンス(偏見か?)というイメージ通りの、ノルマンディー海岸でのホテルに集う人々の一夏をスケッチしたような作品です。劇中でともに宿泊しているユロ氏はまるで背景の様に動き回っている感じですが、彼なりにバカンスを愉しんでいたみたいです。彼は決して部外者というわけではなくて他の宿泊客もユロという名前は認識して話しかけたりしていますが、彼は好きなように行動して意図せずに騒動を引き起こしてしまいます。タチはその長身を生かしたまるで機械仕掛けのような一種のパントマイム芸で、これは彼じゃなきゃ出来ないまさにフランスのエスプリの体現という感じの名人技です。これは絶対ドリフや志村けんのコントは影響を受けていると思います。とくに私にはテニスをするときの珍妙な動作がツボでした。またユロ氏とマルチーヌの間に淡い恋愛感情が芽生えるところも良かったですね。 ちなみに『ぼく』って誰だと?という疑問ですが、これはシリーズ三作目の『ぼくの伯父さん』の方が日本では先に公開されていたのでつけられた邦題です。『ぼくの伯父さん』のユロ氏は若干キャラが変わって能動的な感じになったような気もします。宿泊客の中にいるパリから頻繫に電話がかかってくるビジネスマンとその一家も、『ぼくの伯父さん』の妹夫婦としてスライドしているような感じですね。