9.《ネタバレ》 シリーズ38作目。あれれ?夢オープニングじゃないぞ?寅の一人語りと桜が満開の江戸川の土手。そして語りの〆が「私の故郷と申しますのは、東京は葛飾柴又…」そう!東京って付いてるから、1作目の一番最初のナレーションを意識してのオープニング。
あぁ、本作が寅さんの最後って噂もあったのか。確かに、おいちゃんが肺炎で入院している。跡取りの寅は何してるんだって話をしてる。おばちゃんは「もう店辞めよう!」って騒いでる。そして三船敏郎がゲストで出てくるとなれば、最後の寅さんと言われても納得の布陣。
本作の本流は獣医の先生と、はまなすママの恋愛模様です。'80年代に入り、もう若くない寅は、若者の恋をサポートすることは多くなってきたけど、熟年の恋をサポートするというのは、意外性としても面白い試みだったと思います。
常に難しい顔をしてた先生が、その難しい顔のまま、勇気を振り絞ってママに告白するシーンは、とても手に汗握る展開で、ある意味微笑ましく、そして知床の風景に負けないくらい爽やかでした。
舞台はほとんど“This is知床”の斜里町。観光名所も多く、カラッと爽やかな斜里の風景がじゃんじゃん出てくる。ご存じの方もいるだろうけど、劇中何度か歌われる『知床旅情』って、斜里の裏側、観光地化があまり進んでない漁師町・羅臼町の歌です。
斜里の自然描写が多いぶん、割りを食ったのが、寅とマドンナりん子との恋愛模様だったのかもしれません。二人の関係が終わるところも、船長の語りで済まされてしまいました。
ところで、りん子はどうしてまた東京に出てきたんでしょうか?東京にはあまりいい思い出はなく、知床で暮らしたほうが幸せだったんじゃないかと思うところ。もし本作が最終回だったら、寅とりん子の今後を、もう少し匂わすカタチで終わっていたのかもしれません。だから、東京に出てきたのかな?って。
何せ竹下景子は3度も別人マドンナをしたくらいだから、リリー/浅丘ルリ子とは別な意味で山田監督のお気に入りだったんでしょう。
本作が最後でも納得の内容でした。でも一本の映画としては完成度が高く、寅という一人の男の物語の最後としては、少し消化不良だったんでしょうか?何より寅が大きな恋をしないで終わるというのは、ちょっぴり寂しかったのかもしれませんね。