4.《ネタバレ》 増村保造・若尾文子コンビのコメディと言えば、やはり本作が代表作(ていうか、このコンビでほかにコメディってあったっけ?)。若尾はまだ伸び盛りの若手女優で、増村は洋行帰りの若き大映のエース監督、60年代増村作品のドロドロ風味は微塵もなく、スクリューボールと呼べるほどのスピーディーな展開のラブコメであります。この頃の若尾様は演技力よりも輝く個性が持ち味でして、本作のキャラみたいな因習にこだわらない合理的で活発な女性を演じられたら観る方はメロメロにされてしまいます。脇を固める役者たちがその分それぞれの持ち味を出して若尾様をサポートしていて、とくに船越英二と宮口精二は好演でした。川口浩も若尾様と共演すると彼の魅力が最大限に引き出され、育ちの良さをこれほど自らの個性にできた俳優は彼のほかに見当たらないでしょう。舞台となるオフィスは丸の内という設定で、デートや会食の場面が何度も出てきますがそこは丸ビル地下街を彷彿させます。この地下街の風景は撮影された昭和34年ではまさに最先端だったでしょうけど、その雰囲気や活気は現代でも通用するモダンな撮り方だと感じます。ストーリー自体は「そんなアホな…」と突っ込みたくなるところですが、観客にそれを許さないスピーディーなストーリーテリングが重要なんだとさすが増村は良く理解しておいでです。彼にはもっとコメディを撮って欲しかったな。