2.《ネタバレ》 “和製アルセーヌ・ルパン“多羅尾伴内がスクリーン初登場!GHQにチャンバラ映画製作を禁止された苦肉の策で、時代劇専門の大スター片岡千恵蔵で初の現代劇を撮るという奇策は関係者の危惧をものともせず大ヒットして映画史にその名を刻むことになりました。 こういう際物的な出自なんですが、これがどうして、テンポの良い探偵映画の秀作なんですよ。この映画の特徴は、終戦翌年でまだまだ復興にはほど遠い状態の東京なのに、画面に戦禍の跡や闇市やボロ着の庶民などが一切映らないところ。劇中「引き揚げ」「公職追放」の二語だけがセリフにありましたが、徹底的にファンタジーの世界に徹しています。これなら戦争の傷跡が癒えない庶民が熱狂したのもなんか納得できます。千恵蔵の変装はどう観ても千恵蔵にしか見えないのはご愛敬ですが、彼のコミカルな演技は当時の観客には新鮮だったでしょうね。チャンバラの代わりに拳銃を撃ちまくるというわけですが、殴り合いでの千恵蔵の身のこなしは想像以上に俊敏で、重厚な無線付きオープンカーを駆ってのカーチェイスまで見せてくれたのはさすが大スターという感じです。監督はマキノ一家の松田定次でさすがエンタメの極意が判っているし、ストーリーはルパンもののほぼ翻案ですけどトリックは正統派推理小説そのものでした。 古い映画ですけど観て損はない一編だと思います。