1.《ネタバレ》 既に世界的な名声を得ているイランの監督ジャファール・パナヒの作品ですが、
反体制的であるという理由でイランでは映画製作を禁じられており、彼の映画は本国イランでは公開されていないという。
そんなパナヒ自身がタクシー運転手に扮し、次々と乗っては降りていく乗客たちとの会話から今のイランの庶民の日常を映し出しながらも
パナヒらしく、ユーモアのある乗客とのやりとりの中にイランという国の今に対し物申すという作品になっています。
中国に次ぐ死刑大国であるイラン。最初に乗り合わせた男女の客2人に死刑制度に関し議論を戦わせる。
次に乗ってきた、もっと人々に自由に外国映画を見てほしいというレンタルビデオ屋の男とのやりとりも面白い。
そして〝上映可能な映画〝なるものを撮るという課題を出された姪っ子を乗せる。
その〝上映可能な映画〝とは何なのか?―姪っ子が課題のテキストに書かれているその内容を読み上げる。
「俗悪なリアリズムは避けろ、政治や経済には触れるな・・・」などなど。
俗悪なリアリズムとはあくまでも体制側からの評価であり、つまりはパナヒみたいな映画は撮るな、ということか。
最後に乗せた、バレーボールを観戦して逮捕され、長期間にわたり拘禁されている女性の面会に行くという女性弁護士も印象的。
イスラムの戒律のもとに、女性のスポーツ観戦が禁止されているというイラン。
パナヒの傑作の1つである「オフサイド・ガールズ」に描かれた内容そのままの話です。
こうして文章にすると抑圧的な世界に生きる人々を描く重苦しい映画のように見えますが、
登場する人々の多くは明るく強く、日々を懸命に生きていて作品の空気も実に明るい。
タクシーに乗って来る乗客それぞれの事情を通し、イランの現状の一端を世界に向けて発信する朗らかな語り口が見事な作品です。
最後にパナヒの短いメッセージが字幕で出ますが、本作もまた本国イランでの上映は許可されなかったという。